2005年 03月 28日
今世紀に入ってから、米国及び欧州ではそれこそ雨後の筍のようにヘッジファンドの数が増えているが、それに合わせてファンド・オブ・ファンズの数も急増している。おそらく大手機関投資家の運用担当者であれば、これまでに大小合わせて100近いのファンド・オブ・ファンズからプレゼンテーションを受けているのではないかと思われる。 これらのファンド・オブ・ファンズは、その出自から、米系vs欧州系、或いは独立系vs投資銀行系vs伝統的資産運用会社系といった切り口で分類されることが多いようであるが、私は、ボトムアップ運用型vsアクティブ運用型という整理の仕方もあるように思う。ボトムアップ型とは、一旦投資すると決めたヘッジファンドに対しては、モニタリングは継続するものの、よほどのことが無い限りは入れ替えや組み入れ比率の変更を行わないタイプのファンド・オブ・ファンズである。他方、アクティブ運用型とは、ボトムアップのマネージャーセレクションに加えて、中期的な(向こう3~6ヶ月程度)の運用環境の見通しに基づいて、投資戦略毎の組み入れ比率を積極的に調節し、それに応じて投資するヘッジファンドの入れ替えや増減額を行うことで、トップダウンのアセットアロケーションでも積極的に付加価値の創造を狙っていくタイプのファンド・オブ・ファンズを指す。 ボトムアップ型は、米国の老舗ファンド・オブ・ファンズに多く見られる手法で、日本の生保や都銀が数百億円単位で急速にアロケーションを積み上げていった2000年前後に人気があった。老舗だけに老舗ヘッジファンドとの強固なネットワークが持ち味で、この業界であれば誰もが知っているような有名ヘッジファンドにもよく顔が利くため、普通であれば資金の受け入れを拒絶されるようなマネージャーにも投資枠が確保してあるというのがセールストークになっていた。運用環境がどう変化しようが、いいマネージャーはいい。基本的には、一度惚れ込んだらじたばたせずに任せておくに限る。 アクティブ運用型のファンド・オブ・ファンズは、マネージャーセレクションを軽視する訳ではないが、『運用環境の変化に応じてヘッジファンドの各投資戦略のパフォーマンスが大きく変化しているという現実がある以上、それに合わせて戦略毎のアロケーションも能動的に調節していくのがポートフォリオ管理のあるべき姿』というスタンスを持っている。コンセプトとしては正しいのであるが、次のようなやや野心的な前提条件の存在を無視することは出来ない。 ①ヘッジファンドの投資戦略を細部まで理解して、精度の高い戦略別分類が可能である ②各投資戦略のリスク・リターンが予測可能である ③戦略間・マネージャー間でスムーズな資金移動が可能である 特に、まともなファンド・オブ・ファンズであれば、①②はある程度実現可能であるが、③について疑問を呈する向きは少なくない。前回の記事で書いた通り、多くのヘッジファンドはLiquidityが限定されているため、運用会議の方針に沿って直ちにあるファンドの減額・解約手続きに入っても、その資金を別のファンドに再投資出来るのは1~6ヶ月後である。常にやや先の見通しを考えていなければならない。また、より難しい問題として、ヘッジファンドの投資枠(Capacity)の問題がある。これまた前回の記事で書いたが(というよりも、この話をするために前回書いたのだが)、ヘッジファンドは落ち着いて運用に集中したいので、頻繁な資金の出入り(特に流出)を嫌う。マネージャーのスキルや運用体制に対する評価に変わりはないがDistressed戦略の見通しが悪化したという理由で一旦投資額を絞り込んだはいいが、1年後に運用見通しが改善したときに、果たして同じマネージャーが前回と同様に資金を受け入れてくれるだろうか。ヘッジファンドとの関係維持が非常に難しいやり方ではある。 私の勤めている会社は、こうしたアクティブ運用を続けている。結果の方は、『良いときもあれば裏目に出るときもある。しかし、長期的にはある程度の付加価値を生み出せている』といったところか。ボトムアップとアクティブのどちらが正しいアプローチなのかという問いに対する答えは、結局のところファンド・オブ・ファンズを選ぶ投資家の判断に委ねるしかないが、個人的には、自分の会社の崇高な理念に一定の共感を覚えている。例えが陳腐で恐縮だが、ボトムアップ型の王道を行く老舗ファンド・オブ・ファンズの理想形は、きっと昨今の巨人軍のような有名選手をズラリと並べた豪華打線で全試合を戦い抜いていくようなスタイルなのだろう(プライドが高い選手ばかりなので調子が悪いからと言って安易に二軍行きを進めたりは出来ない・・・)。これに対して、アクティブ型は全盛期の野村監督のID野球のように、状況に応じたベストな布陣を考えるスタイルか(決して、アクティブ型が他球団を解雇された選手を再生して使っているという意味ではないが・・・)。私は、ファンド・オブ・ファンズの決して安くはない手数料(毎年運用資産の1%前後と若干の成功報酬というのが標準的)が何の対価として支払われているのかを考えると、名前のある元4番打者をかき集めてくる編成能力も然ることながら、監督として実際にシーズンが始まってからの緻密な采配能力も同じくらい大切なのではないかと考えている。外野の広い名古屋ドームでは守備力の高い選手を優先して起用するべきだろう。奇策を弄する必要はないが、自らの信じるセオリーがあるならそれを実践すべきだし、何も手を打たずにズルズルと負けるよりも、監督として遥かに付加価値があると考える。特に、プロの投資家に対しては、そうしたポートフォリオマネジメントのプロセスを開示・共有することによって、投資家に学習機会を提供することにもなるのである(これは、私の会社の商品に投資してくれている投資家から頂いた言葉である)。 前置きが長くなり過ぎてしまったので、アクティブ運用のファンド・オブ・ファンズのポートフォリオ管理手法については、また今度。
by th4844
| 2005-03-28 06:17
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