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2005年 06月 15日

証券取引所を巡る攻防

村上世彰氏の今度の標的は大証だとか。『現経営陣は、「清算機関でもある証券取引所は、参加者の破綻に耐えうるような十分な財務資源を維持すべきである。」と主張して、多額の剰余金を有しながら株主に対する適正な還元を行おうとしない。しかし、そもそも、有事における取引の安全は、一民間企業である当社の株主のみの負担によって確保されるべき性質のものではない。』という彼の主張は、確かにその通りであろう。明確な使途のない現金を大量にべったり寝かせておくといったバランスシートの使い方は前近代的であると言われても仕方が無い。この手のケースではいつもそうだが、不要不急のキャッシュは直ちに株主に還元しろ、という主張が他のステークホルダーの共感を得られるかどうかは疑問であるとはいえ、標的にされる企業の財務戦略に問題があったことは事実だ。ここで村上氏のようなアクティビストの善悪を論じるつもりは無いが、こういった一つ一つの“事件”が、日本の資本市場を徐々に成熟させていく触媒として機能していると理解している。

さて、ここ欧州でも証券取引所を舞台とした攻防が注目を集めている。





ロンドン証券取引所、ドイツ取引所、ユーロネクストの三者による仁義無き戦い

かつて欧州には30以上の証券取引所があり、その他にもさまざまなデリバティブ取引所があったが、90年代後半からのEU域内の市場統合と欧州単一通貨「ユーロ」の誕生によって、域内における国境を越えた経済活動が活発になり、『欧州企業』の形成が本格化した。こうして誕生した『欧州市場』における覇権争いと、ニューヨーク、東京、シンガポールといった世界各国の取引所との競争が相俟って、欧州の主要取引所は自らの株式を上場し、その上場株式を通貨として、M&Aによる合従連衡を積極的に進めている。特に下記3者は2001年のLIFFE争奪戦あたりから、AがBを買うといったところにCが割って入り、そうかと思えば今度はBがCを買うといってAがそこに割り込んだりと、あたかも三国志のような拮抗が続いている。

 ・Euronext(ユーロネクスト)
     パリ、ブリュッセル、アムステルダム各証取が合併して誕生。
     その後、リスボン証取とLIFFE(ロンドン国際金融先物取引所)を吸収

 ・London Stock Exchange(ロンドン証券取引所)
     上場企業の株式時価総額では欧州一だが、金融派生商品市場を持たない
     (2001年にはLIFFEの買収を狙ったが競合の末、ユーロネクストに敗れた)

 ・Deutsche Boerse(ドイツ取引所)
     フランクフルト証取を運営するほか、デリバティブ取引所EUREX(ユーレックス)を
     スイス証券取引所と共同運営。

上記3者のうちいずれの2者の組み合わせでも上場企業の時価総額で東京証券取引所を上回る世界第2位の証券取引所が誕生すると言われている。直近では、昨年末にドイツ取引所がロンドン証取に対して買収案を提示したものの、ドイツ取引所の株主の中にも反対意見があることを理由として今年3月に撤回している。ユーロネクストも対抗して買収提案を出したものの、ドイツ取引所の提案撤回で、ロンドン証取がユーロネクストとの合併に動くのか、ユーロネクストも白紙に戻るのかが注目されている。


ドイツ取引所によるロンドン証取買収を阻止した主要株主とは?

ユーロネクストとのチキンレースの成り行き上のこととは言え、ロンドン証取への20億ユーロ規模の買収が実現していれば、ドイツ取引所の体力を相当圧迫することになったはずだ。しかもロンドン証取の取締役会はユーロネクストによる対抗提案を期待して、ドイツ側の提案を「低すぎる」として反対し続けていたため、買収金額が更に釣り上がる可能性も高かった。ドイツ取引所の株主の中に強固な反対意見があったのも十分に頷けよう。

ところで、日本ではあまり報道されていないようだが、この買収阻止の急先鋒となった物申す株主というのがThe Children's Investment Fund ("TCI")というロンドンベースのヘッジファンドであった。TCIはその名の通り、収益の一部を途上国の恵まれない子供たちの支援のための寄付に充当するというユニークな看板を掲げたヘッジファンドで、こちらでそれなりに話題をさらってもいるため、また機会を改めて書きたいと思う。さて、そのTCIは昨年からドイツ取引所の発行済株式の8%程度を保有していると言われ、本年1月になってからは、ドイツ証取の経営陣に対して、『ロンドン証取買収提案を取り下げて、不要不急となる現金については増配によって株主に還元する』よう求めていた。こうしたTCIの株主提案に、Atticus CapitalやThird Point(いずれも米系ヘッジファンド)やFidelityといった他の大株主も公然と同調したため、ドイツ取引所は3月に入ってから買収提案を取り下げ、同時にCEOとアドバイザリーボードの議長(ドイツ銀行頭取のブロイヤー氏)が引責して退任することを発表した。

ドイツ取引所の株価は2001年の上場から昨年末までの3年間で僅かに20%弱上昇しただけであったが、TCIがパブリックに反対表明を行った本年1月から同取引所のCEOが退任を表明した5月までの間に35%も上昇している。ドイツ取引所に投資していた某ヘッジファンドマネージャーなどは、『Chris Hohn(TCIのポートフォリオマネージャー)はドイツ取引所の企業価値を5億ユーロ以上引き上げて、ドイツの資本主義を正しい方向に導いてくれたんだから、ドイツ取引所の経営陣は彼の銅像を建ててやるべきだ!』と興奮しているとか・・・。これら欧州3取引所の再編案件などはあまりにもメディアで騒がれすぎて衆人環視の状態にあるため、スプレッドが薄すぎたりデイトレーダー等によるノイズが出たりで(一時のライブドアとニッポン放送ほどではないだろうが・・・)、多くのヘッジファンドがやや距離を置いている案件なのだが、中にはそこに敢えて収益機会を見出したマネージャーもいたということだ。

先月開催されたドイツ取引所の年次株主総会でも、ブロイヤー氏は『ヘッジファンドは当取引所にとって重要な存在である』『ヘッジファンドのようなリスクテイカーの存在がより厚みのある資本市場の実現に貢献している』といったような発言をしたと言われている(Economist5月28日号より意訳して抜粋)。それまでの対決姿勢はすっかり鳴りを潜め、全面降伏した格好である。


ヘッジファンド vs BaFin?

この話にはまだ続きがある。

メディアでは、今後の展開の可能性としては以下の4通りのシナリオが伝えられている(ほとんど有り得るシナリオ全部だが・・・)。

 ・ドイツ取引所によるロンドン証取買収はひとまず白紙に戻った
  (ただし、ユーロネクストがロンドン証取に正式にビッドした場合には再考するということになっている)

 ・実際、ユーロネクストによるLSE買収は交渉は現在も進行中といわれている

 ・ドイツ取引所の経営陣交代の混乱の間隙を衝いて、ユーロネクストがドイツ取引所の買収に動く可能性もある

 ・ドイツ取引所がユーロネクスト買収に動く

どちらが主導権を握るかは別として、ドイツ取引所とユーロネクストの合併という可能性も決して低くはない。実は、ドイツ取引所がロンドン証取への買収提案を取り下げた後、TCIはドイツ証取に対してユーロネクストとの合併を勧めている(当初は増配による内部留保の株主への還元を要求していたはずだが、やはりロンドン証取とユーロネクストの合併が現実味を帯びてくる中、指を咥えて見ていられないということか?)。TCIは、ドイツ証取とユーロネクストの合併は、両者のプラットフォーム(システムも含めたリソース)の親和性も高く、高額に釣り上がったロンドン証取の買収よりも合理的で、両者の株主利益の増大に繋がるとしている。

驚いたことに(少なくとも私は驚いた)、ドイツ証取によるロンドン証取買収を阻止した主要株主と言われる投資家は、既にユーロネクストにも触手を伸ばしている。ドイツ証取の大株主上位7名のうち5名が、ユーロネクストの保有比率上位5者と一致しているらしく、これらの投資家主導で両証取の合併が画策されていているという話がまことしやかに語られている。

ただし、撹乱要因として目を離せないのがドイツのBaFin(金融監督当局)の動向である。もともとドイツは欧州で最もヘッジファンド投資に対する規制が厳しい上、現在同国では新BIS基準の発効等もにらんで、以前の日本のように銀行が不稼動資産のオフバランス化を進める動きが出ているため、政治家や一部マスコミには『優良なドイツ企業がヘッジファンドやハゲタカファンドの餌食になるかもしれない』というパラノイアが蔓延しているようである。加えて、今回お膝元の取引所が欧州での覇権を握るのをヘッジファンドに“邪魔された”とあって、ヘッジファンドへの警戒姿勢を一層硬化させているようだ。これは昨日のロイターの記事である。

米SEC、ドイツが求めるヘッジファンド規制強化に反対
[ベルリン 13日 ロイター] 米証券取引委員会(SEC)のカンポス委員は、ドイツは、シュレーダー独首相が求めているヘッジファンド規制強化で米国の支持を得る公算は小さい、との見方を示した。
 シュレーダー独首相は13日、7月の主要国(G8)首脳会議(英グレンイーグルズ・サミット)でブッシュ米大統領など各国首脳に対して、ヘッジファンド規制を見直すように求める、と語った。
カンポス委員は、シュレーダー首相の協議を14日に控えて、米政府は、来年実施が予定されているファンドマネジャーの登録に関する既存の規制以上のことを行う必要はないと考えている、と語った。
同委員は、当地での講演後の質疑応答で、「われわれが、現在行っていること以上のことをする方向に向かうシナリオはないと思う」とし、「もっと透明性が必要で、もっと情報が必要かもしれないが、(ヘッジファンドの)戦略や(株主の)投票の方式に関与することは、われわれの規制業務になじまない」と述べた。
 カンポス委員は、ドイツは、ヘッジファンドが影響力を行使して、ドイツ取引所によるロンドン証券取引所(LSE)買収を阻止し、ドイツ取引所の経営者を追い出したことに動揺している、と指摘した。


詳細は以下の記事(同じくロイター発だが少し前のもの)に譲るが、BaFinはTCIやAtticus Capital といったドイツ取引所の株主に対して、嫌がらせとも取れる検査を実施しているようである。TCI等による過去半年のネガティブキャンペーンについて効果的なの懲罰が実施される可能性は低そうであるが、当局のこうした敵対姿勢が今後の取引所間買収合戦にどのように影響してくるのかについては興味深い。

3-Watchdog sees signs of collusion against D.Boerse
BONN/FRANKFURT, May 19 (Reuters) - Germany's financial sector supervisor BaFin said on Thursday it had found indications that certain Deutsche Boerse shareholders had acted in concert to oust top managers at the German exchange operator. The watchdog has been investigating whether some investors -- primarily UK and U.S. hedge funds -- had acted together in forcing out Deutsche Boerse Chief Executive Werner Seifert and Supervisory Board Chairman Rolf Breuer. "We have investigated whether there are indications for joint actions of shareholders. The investigation was positive," BaFin president Jochen Sanio told a news conference. BaFin will now probe recent events more closely, he added. The supervisor is also seeking to assess whether the investors in question together hold a controlling stake of Deutsche Boerse's capital. Should the investors own over 30 percent and have joined forces to block Deutsche Boerse's bid for the London Stock Exchange two months ago and more recently to remove Seifert and Breuer, then under German law they would have to make a public offer for all of Deutsche Boerse stock. The BaFin comments caused Deutsche Boerse shares to reverse earlier gains. The stock was the third-largest decliner on the DAX index, off 1.3 percent at 58.22 euros at 1405 GMT. Dealers said the stock slipped on the view that if there was to be a forced bid, this by law would have to be at the volume-weighted average price of the previous 90 days, which in any case would be clearly below the current market price. Counting back from the March 6 collapse of the LSE bid, a Frankfurt trader said, "The offer price would then come out at 50 or 52 euros. Nobody would be interested in that. Why should an investor give away the stock?" But a Frankfurt analyst said the 90-day period would be based on today's announcement, which would imply a much smaller discount to the current market price and increase the appeal of an obligatory offer for investors.
He added that, however, it was notoriously hard to prove collusion among investors. A Deutsche Boerse investor agreed. "It is our understanding that this is extremely difficult to prove; it is almost impossible. It looks like this is politically motivated," said an official at an investment company in London which has a small holding in Deutsche Boerse. UK hedge fund The Children's Investment fund, Deutsche Boerse's single largest holder, with 8 percent, had no immediate comment. The next largest, Atticus, the U.S. hedge fund, could not be reached for comment. Separately, the economics ministry in the state of Hesse, the market supervisor for the Frankfurt Stock Exchange, which Deutsche Boerse operates, said it was still evaluating the results of its own investigation. It has called on Deutsche Boerse and its owners to clarify the future strategy and management of the exchange, warning that if there were no safeguards, its licence was in jeopardy. Apart from forcing shareholders to make a public offer, BaFin could block the investors' voting rights. It was unclear whether the authority would make such a move in time for Deutsche Boerse's May 25 annual general meeting. Sanio said BaFin had sent a questionnaire to the investors in question. "Until the questions are answered, nothing will happen. The deadline to do that is relatively short. "BaFin has found something. If I were the lawyer of the hedge funds, I would start worrying and thinking about my strategy," said a Frankfurt capital markets lawyer.

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by th4844 | 2005-06-15 04:53 | Hedge Fund


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