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2005年 06月 09日

CBアービトラージは死んだか(2)

2005年3月にGMが業績見通しの大幅下方修正を発表したのを受けて、投資不適格への格下げ懸念から、同社のクレジットスプレッドが急拡大した。翌4月には実際に格下げが発表され、格付け会社からはGMのみならずFordに対しても厳しい評価が下された。今回のGM・Fordの格下げによって投資家は総額300億㌦(=3兆円)もの評価損を被り、これはワールドコム(=2兆円)とエンロン(=1兆円)のデフォルト総額の合計とほぼ同じ水準のマグニチュードであると言われている。こうした社債市場におけるGMのプレゼンスの大きさもあって、ハイイールド債市場全般に売り圧力が強まった。そして、このクレジットスプレッドの拡大はCB市場にも波及して、CBの市況悪化に拍車がかかった。これが“GMショック”がもたらした直接的影響であるが、実は、GMショックはもう一つ、より深刻かつ広範な影響を及ぼしている。

パフォーマンス悪化から投資家の解約が殺到し、ヘッジファンドがポジションの圧縮を迫られて売りが売りを呼ぶというのが第一フェーズだったが、こうした流れに輪をかけたのが、CBアービトラージのクレジットヘッジの機能不全である。

現在、世界で流通しているCBのうち過半以上がヘッジファンドに保有されているといわれている。かつてのCBホルダーの保有動機は原株の上昇狙いであったのに対し、こうしたCBアービトラージのヘッジファンドは、クレジット部分をヘッジしてボラティリティを取りに行く戦略が主体である。したがって、GM問題でクレジットスプレッドが全般的に拡大してロングサイドのCBのバリュエーションが毀損しても、これがCDSなどでヘッジ出来ていれば、ヘッジファンドのパフォーマンスに影響は出ないはず。ところが、実際には、どのヘッジファンドもロングサイドの損失をヘッジ部分でカバー出来なかったのは何故か?

そもそも、『クレジットリスクをヘッジしてボラティリティのプレミアムを取りにいく』というオペレーションは、過去の相関に頼ることになる。最近まで両者の相関はかなり高く、クレジットスプレッド、株式ボラティリティともに2002年後半あたりから下落し続け、最近は過去10年の最低水準まで低下していた。ただし、今年の2月末くらいから両者の相関に大きな変化がみられ、クレジットスプレッドが拡大する一方、ボラティリティは更に拡大を続けた。クレジットとボラティリティの過去の関係に基づいて計算されたヘッジも当然機能しなくなり、保有していたCDSでは突然出現した“CB特有のクレジットスプレッド”をヘッジしきれなくなってしまった。

GMショック後、最もヘッジファンドのリターンに影響を及ぼしている要因の一つが、こうした『相関の崩壊』であり、クレジットとボラティリティ(または普通社債と転換社債)のみならず、クレジットとエクィティ、クレジットとメザニンといった、資産クラス間の相関が大きく崩壊しているため、イベントドリブン型戦略のヘッジファンドのキャピタルストラクチャーアービトラージ(GMの普通社債をロングしてGMの株式をショートするなど、同一発行体の異なる証券のアービトラージ)のポジションやクレジット型戦略のヘッジファンドのCDOの相関アービトラージ(CDOの異なるトランチ間のアービトラージ)などで大きな損失が発生した。こうした相関の変化のトリガーとなったのがGM・フォードなのだが、GM・フォードがなぜマーケット全体の相関に影響を及ぼしたのだろうか?それは、今回のGM・フォードの格下げのインパクトは株式市場よりもクレジット市場においてより大きくなったからである。この2つの市場におけるGM・フォードのプレゼンスの大きさが全く違う。米国株式市場においてGMやフォードは1%未満に過ぎないが(SS&P500インデックス組入銘柄の時価総額は1200兆円弱、GM・フォードは合計で2兆円程度)、ハイイールド債市場ではGMだけで3割、両社合わせるとなんと4割以上(GMACを含むGMの社債発行残高は約30兆円 HY市場は100兆円)を占めているのである。
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by th4844 | 2005-06-09 19:45 | Hedge Fund


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