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2007年 01月 23日

私にとってのロンドン 2002年~2006年編(1)


このブログを書き始めた頃に、『私にとってのロンドン』というテーマで何回かに亘って自分の恥ずかしい過去をひっそりと晒していたのですが、そこでは2002年の暮れから今日までの現在進行形のロンドン生活の日々については触れていなかったので、帰国前の今、ちょうどいい機会なのでこの続きを書いてみようと思います。




先週金曜日の夜。A40を快調に飛ばすタクシーの後部座席にもたれて、私は1人、さっきまで送別会の会場で大音響に負けじと大声で同僚たちと語り合っていた他愛も無い会話の内容を何となく思い返していました。そして、自宅まであと10分くらいという地点に差し掛かったところで、ふと『この道をタクシーで通るのも最後かもしれないな』と思い直し、景色を少しでも目に焼き付けておこうと、体を起こして窓の外に目を遣りました。

ルノーの代理店が目に入ります。幹線道路沿いの何の変哲もないディーラーですが、これを見るや否や、数年振りに微笑ましい記憶が蘇ってきました。ロンドンに赴任してきた当初、毎晩ただ1人深夜までオフィスに残ってタクシー帰りを余儀なくされていたのですが、ある晩のタクシーの運転手が私の全く知らなかった経路を辿ったので何だか緊張して外の景色を注視していたところ、このルノーの前に差し掛かったところで、その運転手が『もうすぐ○△だから、そこを左に曲がったらすぐに着くよ』と一声かけてくれて、なんだか妙にホッとしたのです。当時の私は、仕事の要領が掴めずにいるばかりか、帰宅するタクシーの車内までも気が休まる暇がなかったんですね。

最近は送別会続きで、多くの方の温かみに触れて“じーん”とくる機会がやたらと多かったので、必然的に自分の中でも『私のロンドン生活は本当に楽しかった!』的な極めてハッピーな総括の仕方をしていました。しかし、努めて冷静に考えてみれば、ロンドンでの仕事や私生活を今のように本当にリラックスして楽しめるようになったのは、ここ2年間くらいの間のことのように思われます。告白すれば、ロンドン1、2年目の頃は、表面的な関係はさておき、心の中は常に孤独とも言える寂しい状態でした。


ロンドンに来る前の私は、今の勤務先の東京オフィスで機関投資家向けのマーケティングに従事していました。私は東京オフィスの立ち上げから参画していたのですが、幸運もあって、スタートから2年間で我々としては十分食べていけるだけの顧客基盤が出来ました。そして、その後『こうして獲得した貴重なマンデートをより確かな長期のリレーションシップへと昇華させていくには(本当のところは『なんとか繋ぎとめておくべく』?)、東京の投資家の特殊なrequirementを理解出来る人間をロンドンに常駐させて、ロンドンスタンダードが東京スタンダードを満たせるものに変えていくことが不可欠だ』ということになって、私がliaison役としてロンドンに送り込まれたのでした。

ただ、はじめの頃は本当にダメ社員でした。

まず、何といっても言葉の問題です。東京在勤時からロンドンのスタッフとは殆ど毎日連絡を取り合っていたし、日本の投資家を米国のヘッジファンド巡りの出張にお連れするような仕事もこなしていたので、私はいつの頃からか『帰国子女ほどではないにせよ、自分は日本人の中では英語は出来る方だ』と思い込むようになっていました。ところが、ロンドン赴任後数週間のうちにそんな小さなプライドは木っ端微塵に吹き飛ばされてしまいました。ミーティングに入れてもらっても、テーマによっては会話についていくのも覚束なくて、さっぱり貢献できませんでした。『日本人は恐ろしいほど英語が出来ない』ということはシティの人たちの間でも広く知られており、しかもそれまでの私は社内であっても一応 “客人扱い”されていたので、私が東京にいた頃はいつも随分と平易な英語で話してくれていたのだと思います。ところが、ひとたびロンドン本社の一員となって、“内輪”の人間としてミーティングに参加すれば、当然ながら出席者は皆、何の遠慮もなく凄まじく早口でまくし立てています。東京時代に私が快調に乗り回していると思っていた自転車には、実は立派な補助輪がついていたということを思い知らされたのでした。

次に、言葉の問題を度外視したとしても、コミュニケーションや意思決定のスピードも大変なカルチャーショックでした。ロンドン本社のミーティングでは、参加者の発言・質問・反論・回答等が一切の沈黙を挟まずに矢継ぎ早で怒涛のように進んでいって、どんな話題でもあっという間にいろいろな角度から議論を煮詰めていくのです。日本人同士の相談だと、必ず『うーん、そうだねー』とか『いやー、どうだろうね』とか『これは聞いてみないとわからないですねー』といった“発言しているようでしていない間合い”が頻出しますが、ロンドン本社でのミーティングでは、そういう場繋ぎ的な発言を挟む余地はありません。みんな若いこともあってとにかく飲み込みが速く、一を聞くと、十とまではいいませんが、七・八くらいまでは瞬時に理解して、間髪入れずに九と十あたりについての質問や確認が飛び交うという雰囲気です。私も、ロンドン到着時からいきなり “日本代表”として常に即答・即断を求められて、慣れないうちは大変なプレッシャーを感じました。即断・即決でやっていくと、それだけあとで軌道修正を求められる局面も増えるわけですから、それが必ずしも最良のプロセスとは言えませんが、いずれにせよ、『文書を回覧して承認を得る』という日本的(銀行的?)意思決定プロセスに慣れていた私にとっては、この『議論の中で成論を得る』というスピード感に慣れるのは大変な試練でした。もっとも、これはもちろんコミュニケーション能力だけの問題ではないので、『日頃からプロ意識を持って、知識や自分の考えを常にきちんと整理しておく』という基本動作の改善によってもだいぶマシにはなりました。
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by th4844 | 2007-01-23 07:54 | London, UK, Europe


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