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2006年 07月 05日

epilogue

(ひとりごとです。)





まるで、長い小説を読み終えてしまったような感覚に襲われた。


自分にしか見えない形の未来を
自分の手で逞しく切り開こうともがき続ける彼は、
以前から常に気になる存在ではあった。

ただ、あいにく日本のテレビを見ることが出来ないので、
彼の近況を知るには専らインターネットに流れる短いニュースや、
時折更新される彼自身のウェブサイトに踊る活字を読んで、
そこから想像を膨らませるしかなかった。

鳴り物入りの移籍、スタメン落ち、監督との確執、
故障による長期離脱、代表チームの同僚との摩擦、
そして早期引退を匂わす発言・・・。

そればかりか、日本中が胸を打たれたであろう
あの試合終了後のピッチに横たわる姿、
悔し涙に暮れる彼の姿ですら、
私は映像で見ることが出来ず
翌日になってインターネットのニュース記事と
そこに添えられた一枚の小さな写真で知った。
(BBCの中継では、試合が終了するや否や
 その余韻に浸る暇もなくカメラはスタジオに戻り
 その日のロナウドの仕上がり具合についての
 論評が始まってしまった・・・)

テレビで彼の勇姿を見る機会があまりなかったのは残念であった。
ただ、小説に映画や舞台とは違った味わい方があるのと同じく、
インターネットから断片的に漏れ伝わる情報を
パズルのように組み合わせながら想像力を働かせるだけでも、
私は十分に刺激を受け続けることが出来た。

今回のワールドカップでは数年振りに
日本代表の試合をテレビで見たが、
そういった特殊な事情もあってか、
テレビの画面に映る彼の小さな姿は
さながらこれまで追ってきたこの小説に
添えられた数枚の挿絵のように感じられた。

そして、優れた挿絵や写真が
想像力を一層膨らませてくれるのと同じように、
久し振りにテレビで見る彼の背中は
猛暑の中でも、敗色濃厚となっても、
もう決して若くはない年齢に達していても、
ピッチの中を誰よりも必死で走り回る彼の背中は、
強烈なメッセージを発してくれていた。

もう少しだけこの続きを見させてくれと
誰もが願ったはずだが、
残念ながら彼の悲劇的な奮闘も空しく
チームは成す術も無いままに
予選リーグで敗退してしまった。


でも、物語はこれで終わりではなかった。


なんというエピローグが待っていたことか。


はっとさせられた。


なんとまっすぐな言葉なんだろう。


“選び抜かれた”というのとは違う、
研ぎ澄まされたような言葉だ。


こんなメッセージは、きっと悩み抜いた者にしか書けない。


技術や知識ならともかく
他人の意志をコントロールするということは
とてつもなく難しい。

多くの仲間を向こうに回して正論を吐き続ける
憎まれ役というのは、損な役回りであるだけでなく、
自身の内面にも常に葛藤を生む。

先天的なものや後天的なもの、
外部環境といったあらゆる要素と
それらのタイミングが絡みあった帰結として巡って来る
千載一遇の“チャンス”の存在や尊さに
気づけない者を見るほど、もどかしいことはない。

私のこれまでのささやかな経験にぐんとレバレッジを掛けて
彼が自ら背負うことを決めたミッションの大きさについて
想像を働かせてみると、胸の痛みすら覚える。


孤高と形容されることの多かった彼の超然とした沈黙は、
やはり悟りや無愛想などではなく真摯な苦悩の顕れであった。
彼が今回、自らの手で思いの丈を告白してくれたお陰で、
本当は彼もまた我々と同じ生身の人間であったということが
痛いほどよくわかった。

そして彼がまだ29歳の一人の若者でしかないということを思い出した時、
彼のこれまで成し遂げてきたことや、彼が求めてきた高みの凄さを
改めて思い知らされた。

誰よりも厳しく自分と対峙してきた者にとって
天才という言葉を使われるのはさぞかし不本意であっただろう。


彼がサッカーが嫌になって辞めるんじゃなくて、本当に良かった。

例え引退を考えるきっかけがポジティブなものでなかったとしても
最後にサッカーが好きな自分を再発見する形で
ピッチを去ることが出来て、本当に良かった。

この物語が悲しい結末を迎えたのではなく、
全く新しい第二章へと続くことがわかって、本当に良かった。



私も頑張ろうと思う。
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by th4844 | 2006-07-05 14:21 | Career


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