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Cutting Edge

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2006年 05月 21日

あらためまして・・・ ③ヘッジファンド業界のこれから

大手のファンドの多くがどこも安定志向で面白みに欠けるか既に新規投資の受付を停止(“一見さんお断り”)しているし、パンチの効いたユニークなファンドに投資するなら早い段階から『えいやっ』で投資しなければいけない。投資対象の選択肢が増え過ぎて以前よりも随分手間がかかるのに、その癖ヘッジファンドから上がってくる最終的なリターンはもはやビックリするほど高くはない。まだまだ政治家にもメディアにも嫌われてるし、果たして投資家としてはそれでもヘッジファンドへの投資をわざわざ続けたり増やしたりするメリットはあるのでしょうか?




ヘッジファンドとは縁を切れない時代に

そもそも、ヘッジファンドとは何者でしょう。90年代にはヘッジファンド=異端児=少数派でした。どこからともなく現れた怪しげな連中がなんだか怪しげなことをしながらマーケットを荒らしているというイメージでしょうか。ただ、これは昨夏にも書きましたが、ヘッジファンドを運営している人たちというのは、元々は伝統的な金融機関のサラリーマンだった人が殆どです。新種の魔物でもなんでもありませんし、多少のアレンジが加えられたとはいえ、基本的にはその投資対象や投資手法も彼等がかつて大手企業でやっていたことと大差ありません。彼等はただ独立しただけなのです。90年代までは、そういう航海に出て無人島を拠点にして活動する人々はまだほんの少数派でしたので、海賊扱いされたりしたものですし、実際に粗野で乱暴な人たちが多かったのも事実でしょう。ところが最近になって、どうも海に出たほうが面白そうで、しかもあちらの島の方が快適そうだということがわかってくると、後に続いて海に出る人達がどんどん増え始めたのです。そして今や、資産運用に携わる人間の大半がいつか“あの島”で自活するという夢を語るようになり、一方では“あの島”で生まれた第二世代、第三世代がちらほらと出始めている時代です。私には、このようなヘッジファンドコミュニティの勃興のプロセスが、プロフェッショナル達の民族大移動のように見えます。ベンチマークとかトラッキングエラーとかストップロスとか会社の上層部の思惑とか他部門の業績とか、そういった従来の発想やしがらみに閉塞感を感じたサラリーマン・ファンドマネージャー達が、『自分の信じる投資手法を極め、そしてそれが成功した暁にはその正当な対価を受け取りたい』という純粋な願望を実現するために独立することを決め、そしてその際に使い勝手が良くて(しかもちょっと格好良さそうな?)ヘッジファンドというプラットフォームを用いることを選んだだけのことです。

ただ、これだけ多くの人が移住していったヘッジファンドのコミュニティは、もはや絶海の孤島などではなく新大陸と認識すべきかもしれません。そしてそれがコミュニティを形成するようになった以上、その住民たちは運用業界における市民権を得るのと引き換えに、市民としての義務や責任を自覚し全うする必要もあります。また、そもそも新大陸におけるコミュニティとしての規律や秩序の整備も急務です。

一方、投資家サイドにおいても、新大陸の出現によって運用業界全体のパワーバランスが変化していることを踏まえて、その新世界の秩序を前提とした新たな運用の在り方といったものを構築していく必要があります。大胆に予測するとすれば、ヘッジファンドを初めとするオルタナティブなアクティブ運用は、従来の狭義のアクティブ運用と渾然一体となりながら、やがて運用業界のマジョリティの一角へと昇華していくのではないでしょうか。というのも、そう遠くない将来において、“伝統的運用 vs. オルタナティブ(ヘッジファンドやプライベートエクィティ)”という対立軸は消え、伝統的運用の世界をも巻き込んだ再編の後に、“パッシブ運用(ベンチマークから少し乖離するタイプの今日的なアクティブ運用を含む) vs. アブソリュートリターンのアクティブ運用”という新しいパラダイムへと移行していくものと考えられるからです。そして、もしも世界がこうした方向に向かっているとすれば、投資対象の選択肢からヘッジファンドという新大陸を除外するということは、あまり賢明とは言えなくなります。

これからのヘッジファンドとの付き合い方

1.評判の良さそうなファンドに投資すれば毎年20-30%超のリターンが出る、という時代はもう来ないと思っておいた方が得策かと思われます。短期的にはともかく、長期で均して考えれば、ヘッジファンドも所詮は『取ったリスクに応じてそれなりのリターンが返ってくる』という普通の投資の範疇にあると認識すべきでしょう。良いファンドだからと言って、all weatherでいつも儲かるわけではありません。各ファンドにとって追い風の時もあれば向かい風の時もあるのは当然のことです。超大型の名門ヘッジファンドへの投資は安心感がありますが、彼等も永遠の天才ではありません。老舗だからといって福袋の中身に過剰に期待するのは禁物です。

2.お得感のある福袋はあまり見かけなくなりましたが、最近はいろいろと面白い素材が出回っていますので、それらをうまく使いこなすことが出来れば思惑通りのキャッシュフローに近い特性(リターンの分布の歪度・尖度や他の資産クラスとの相関)を持ったポートフォリオを作り出すことが出来そうです。投資戦略や地域、そしてマネージャーについての選択肢が格段に広がったので、投資家が能動的にアセットアロケーションに関与して創造性を発揮する余地が広がっています。ヘッジファンドという言葉がこれまで意味してきた枠組みに囚われていては、ヘッジファンドらしさは消失していく一方です。投資対象を広げ、投資先の積極的な入れ替えや中期的なタクティカルアセットアロケーションを実践することは言うに及ばず、流動性の戦略的な分散(例えば、月次解約のものばかり揃えるのではなく、日次解約可能なものから3年ロックアップのものまで幅広く)や積極的なストラクチャリングの活用も検討すべきでしょう。流動性に関しては、ポートフォリオ全体に画一的な流動性ガイドラインを設定するのではなく、積極的にバランスさせることが大切ではないでしょうか。ストラクチャリングについては、元本保証はあまり効果的とは思えませんが、ポータブル・アルファや、多彩なトランチを持つCFO(ファンド担保証券)の組成などはもっと使い道がありそうです。

3.ヘッジファンドに投資する者にとって、より高度なリスク管理手法を採用することが可能になりましたし、それが求められるようにもなっています。まず、これは皮肉なことですが、ひと昔前ならばヘッジファンドと言えばブラックボックス扱いで『オルタナティブ=その他』と印をつけてポートフォリオの片隅に目立たぬようにそっとしておくしかなかったのですが、最近はヘッジファンドも細分化されたり情報開示に積極的になってきたので、透明性が増した分、却ってリスク管理に手間がかかるようになりました。
次に、ヘッジファンドのドメインが拡大するにつれて、モニターすべき資産や地域もどんどん増えています。株や公社債、CB、為替、商品先物、不良債権といった古典的な投資対象に加えて、最近は企業向け直接融資、住宅ローン、ABS、貿易金融、保険引受、エネルギーデリバティブといったアセットクラスまでエクスポージャーが広がっています。地域で言えば、G7に東アジア、東南アジア、南アジア、中東欧・ロシア、中南米、最近は中東や中央アジア、アフリカのポジションすら目にすることがあります。これまで大きな金融機関のバランスシートに乗っていたあらゆる資産が、加速するアンバンドリングやオフバランス化といった動き(不稼動資産や収益率の低い資産、更には監督当局によってリスクが高いとレッテルを貼られた資産などを売却することによって、金融機関が資本効率を高めたりBIS基準自己資本比率の低下を回避しようとする動き)もあって、どんどんファンドという形でスピンオフしてきて、自己資金でなく外部資金を運用するビジネスモデルに転換しているのです。
こうなってくると、これからのヘッジファンド投資とは、高度に専門化されたヘッジファンドを組み合わせることによって従前の銀行や保険会社のポートフォリオの凝縮版(ミニチュアだがより高質・濃密)を合成していく作業に近いともいえます。これだけ多種多様な資産へのエクスポージャーを、『オフショアの私募形態の箱を経由している』という理由だけでヘッジファンドという名のどんぶり勘定で管理することが適切でないことは、誰の目にも明らかです。もはやヘッジファンドという言葉は、進化し続けるヘッジファンド業界の実態を何ら具体的に定義出来なくなっていると言っても過言ではありません。これからのヘッジファンド投資においては、とくに機関投資家の場合は、従来よりも遥かに科学的なアプローチで自身の投資プロセスを最適化(正当化ともいう?)する必要がありそうです。

4.まさに東京が典型例なのですが、ここ数年ヘッジファンドのローカル化の傾向が顕著に見られます。昔は、ヘッジファンドといえばその殆どが米国やロンドン、せいぜい香港やシンガポールを本拠としていたので、業界の人や情報もそうした場所に局地的に集積する傾向がありました。以前から東京に拠点を構えていたヘッジファンドもありましたが、それでも運用しているのは外国人とか半分オフショア化してしまっている日本人というケースが多かったので、彼等は東京にいてもニューヨークやロンドンの方を向いて運用をしていたと言えます。ところが、ここ数年の間に、日本でキャリアを積んだ日本人が日本人投資家をターゲットにして運用するヘッジファンドというのが随分と増えてきました。当然ながら、こういう純国産のヘッジファンドに関する情報は、ニューヨークやロンドンよりも東京に居る方が耳に入ってくるものです。東京に限らず、大陸欧州で、アジアで、オーストラリアでこうしたローカル化が急速に進展した今、世界のあちこちに拠点を有していることが優位に働くことは間違い無さそうです。

5.手前味噌で恐縮ですが、やはりファンド・オブ・ファンズを使うのが良さそうです。こうしてずーっと見てきたように、ヘッジファンド投資の世界はいよいよ複雑化の一途を辿っています。現在、世界には8,000ものヘッジファンドがあってここのところ毎年1,000くらいの割合で増えていると言われていますが、この広大なユニバースの中からほんの一握りのヘッジファンドを厳選してポートフォリオを組んで、それを微調整しながら常時最適化していくというのは、遣り甲斐のあるチャレンジではありますが、やはり相応のリソースと時間と覚悟が必要であることは明らかです。実際に、いろいろな方面からご意見も伺っていますが、例外的に先進的な金融機関を除いては、やはりこうした業務は専門家であるファンド・オブ・ファンズ運用会社にアウトソースするのが現実的だし効率的だ、という声が圧倒的に多いようです。まだ我々のような中間業者も食べていけるんだ、という安堵感もありますが、やはりそれ以上に身の引き締まる思いです。私の勤務先は、業暦こそ長いものの運用資産規模で言えば中堅レベルに分類されますので、業界内でエッジの効いたブティックとして生き残るためには、やはり今後も相当の企業努力が必要ですし、それは私個人にとっても同じことです。
これまで書いてきたような業界の趨勢を踏まえて考えてみると、そういう意味ではこれからのファンド・オブ・ファンズには、クリエイティブな発想というのがますます重要になってくるのではないかと考えています。この業界に世界中から集まり続ける大量の資金と人材をどう有効活用していけるのか。投資家は勿論、必要に応じて第三者をもそうしたディスカッションにどんどん巻き込むことによって、或いは業界内の連携によって(この業界には、まだ横の連携という発想が殆ど見られません・・・)、このカオスから何を作り出すことが出来るのか。旗艦ファンドという名の幕の内弁当をただひたすら売り歩くというのは、90年代的なヘッジファンドビジネスに過ぎません。そこには一方通行の発想しかありません。今や、ヘッジファンド投資の選択肢はほぼ無限大なのですから、その様々なパーツを使って、どういう性格のリスクをどれだけとって、どういうストラクチャリングを用いて、どういうパターンのキャッシュフローを組み立てていくか。よりオープンで、よりインタラクティブなコミュニケーションによって、それぞれの投資家にとっての最適解に少しでも近づいていければ、などと思います。投資家とヘッジファンドとの間に介在するファンド・オブ・ファンズが提供していくべきバリューの真髄とは、そういったプロセスやコミュニケーションにあるのではないかとさえ思うのです。
ヘッジファンドにおいては世代交代や暖簾分けが進んでいますが、ファンド・オブ・ファンズではまだ第一世代が頑張っているところが多いようです。老いても尚頑張る人が居るというのは、それはそれで賞賛すべきことですが、他方で我々のような次世代の人間は、いずれは第一世代が築いたビジネスモデルを次のバージョンへ、ファンド・オブ・ファンズ2.0へと発展させていくべき存在です。小さな会社の小さな担当者に過ぎない私ではありますが、微力ながらこのフィールドでどんなことが出来そうか、様々な可能性について柔軟に考えを巡らせながら探っていきたいと思っています。

by th4844 | 2006-05-21 18:10 | Hedge Fund


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