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2006年 03月 17日

カリスマバイヤーとスーパーセールス

最近は公私ともにいろいろと立て込んでいてすっかり更新が滞っていましたが、ようやくいくつかの案件が片付きつつあるので、今日は久々に投稿です。

さて、皆さん、昔はどこで服を買っていましたか?そして、最近はどこで服を買っていますか?20年くらい前なら、買い物に行くと言えばデパートやスーパーで済ませていた人も多かったのではないでしょうか。私の周辺でも、『服をどこで買ったか?』と聞かれれば、どこの製品なのかというよりも、それをダイエーで買ったのか東急百貨店で買ったのかそごうで買ったのかという質問として捉えていたような気がします。それに比べて、今では専門店を利用する人が格段に増えた気がします。アパレル大手の直営店舗も随分と増えましたよね。




その昔、私達や私達の親の世代が買っていたのは、デパートやスーパーのバイヤーがどこかの問屋から仕入れて来た製品でした。まだ高級ブランドに対する需要などはそれほど大きくなかったこともあって、世間の人が身につけそうな平均的なアイテムを卸売商もしくは商社から買い付けてお店に適当に陳列していれば、それでモノが売れました。駅前の商店街の洋品店でも、ほぼ同様のビジネスモデルが機能していた時代です。流通業者が消費をリードしていた時代と言えるかもしれません。

それがバブル期になると、需要の強さに押されてか、百貨店やスーパーの関心は量的拡大(=売上増)に傾斜していったようです。とりわけデパートは、商品の買い取りをしない上に売場の管理をメーカー&卸に丸投げして、とにかくフロアを商品で埋め尽くすことだけに血眼を上げていきます。それ故に、デパートはただの場所貸し業に成り下がってしまった等と揶揄されたりし始めるのもこの頃ですが、とはいえメーカーも問屋もデパートもみんな潤っていたので、それで何か大きな問題が生じることはありませんでした。

ところが、バブルが終わりを告げると消費財産業は一気に冬の時代を迎えます。まず、熾烈な価格競争が始まりました。次に、衣料品はどちらかといえば生活必需品の部類に入りますので、消費者の財布の紐が固くなるに連れて、いや、消費者の目が肥えてくるに連れて、売れるモノと売れないモノの差がどんどん顕在化してきました。場所貸しをしていたデパートの間でも、集客力を維持・向上するために売れ筋の商品の供給元を巡っての誘致合戦が激化してきます。

90年代終盤になると、デパートは更に厳しい状況に追い込まれます。名門デパートが絶対的な力を誇っていたかつての力関係はすっかり逆転し、旧態依然とした殿様商売的な商慣行(商品を買い取らないくせに、やたらと高い場所代を要求する)を改めないデパートから有力なアパレルメーカーが距離を置き始めたのです。デパートを離れたアパレルメーカーは、取引条件が魅力的な駅ビルや郊外のショッピングセンターへと流れていきます。また、ファーストリテイリング(ユニクロ)やファイブフォックス(コムサデモード)、ワールド(オゾック、アンタイトル、インディヴィ、タケオキクチ等)といった一部の有力企業は、企画・製造・販売を全て取り込んだ製造小売業(SPA)と呼ばれる業態へと変貌を遂げることによって、良質な商品を従来の常識では考えられないような価格とスピードで直営店舗で提供するようになります。SPAは、元々80年代に米国のギャップがSpeciality store retailer of Privatelabel Apparelとして打ち出したビジネスモデルですが、自動車などと同様に、緻密な生産工程管理を得意とする日本においていよいよ花開いた、と言っても良いのではないでしょうか。とりわけ中国の生産工場までを取り込んだユニクロのダイナミックなサプライチェーンの垂直統合はあまりにも有名ですね。

過去の栄光に胡坐をかいていた百貨店大手がこうした状況に本気で対峙し始めたのは、まだここ5年くらいのことではないでしょうか。マージンを確保し易い二流や三流のメーカーの商品や、見よう見真似で始めた自社ブランドの商品を並べていても、お客さんの足は遠のくばかり。集客力を向上するために、取引条件を大幅に改善する(賃料の引き下げは勿論、返品無しで買い切ったり、サプライヤーの派遣社員を受け入れるのではなく自社の店員が販売する)ことでSPAを展開する有力ブランドを繋ぎとめたり呼び戻したり、或いは、収益力を高めるためには競争力のある自社ブランドの構築に取り組んだりといった変革への取り組みが見られます。いずれにしても、こうした改革を軌道に乗せるためには、場所貸し業に成り下がっていた時代にすっかり劣化してしまった商品知識や交渉力といったノウハウや人材を再び社内に蓄積させていくことが不可欠です。かつての伊勢丹の藤巻弟氏ではありませんが、カリスマバイヤーを育てて魅力ある売り場を作り上げて消費者をリードしていくという気概と能力が無いと、顧客にもメーカーにも全く相手にしてもらえない時代なのです。


私が邦銀勤務時代に担当していた取引先にはアパレルを含めて繊維業界の企業が多かったので、今日はそこで見聞きした少しばかりの薀蓄を披露させて頂いたのですが(昔の話なので、記憶違いや勘違いがあればどうぞご容赦&ご指摘願います)、最近の資産運用ビジネスの潮流を見ていると、まさにこの新・流通革命の頃の様子が彷彿とされるのです。


今も昔も、家庭でも金融機関でも、不要不急の資産については自分で株や債券を買ったりするよりも外部の金融機関に運用を委託する(貯蓄性預金を含む)のが一般的だと理解していますが、かつてはこの運用機関の選定についてはそれ程シビアでなかったと言えるかもしれません。価格競争はさておき、運用会社の評価に関しては、『どこも似たようなもんでしょ?』という発想が根強かったですし、実際にある程度はどこも似たり寄ったりだったんだと思います。また、資産インフレが続いてALMのミスマッチが問題にならなかった時代にあっては、株式運用の収益率が年率12%だろうが14%だろうが、それほどうるさいことを言う必要もありませんでした。だから、結局のところ、いつもお付き合いのある信頼のおける大きな証券会社や信託銀行が持ってくる商品の中から適当に投資先を選んでいた訳です。持ち込む商品の良し悪しではなく、派手な接待や御用聞きといったところで頑張って仕事を取ってくる業者も少なくなかったと聞きます。昔、近所のダイエーやデパートで何でも買い揃えていたのと同じ構図ですね、実は屋上で見られる子供向けの仮面ライダーショーがお目当てだったところも含めて。

ところが、日本では90年代に、欧米では2000年以降になって、リフレシナリオが崩れ、資産の評価額が目減りする一方で負債が増え続けるという状況になると、運用を委託する側(家計や金融機関、年金基金)においては1%でも高い収益率を上げたいという切実な思いが強まりますし、そもそも運用環境が悪化すると、運用を受託する側の優劣もかなりはっきりとしてきますので、『どこに頼んでも似たようなもん』などとのんびり構えていられなくなります。そうなると、どこが持ってきたファンドであるかというよりも、そもそもどこが運用しているファンドなのかということがマターになりますので、競争力のある運用会社のプレゼンスがぐんと高まります。有力な運用会社は、自社の商品を卸す相手(証券会社、信託銀行、銀行等)を能動的に選別するようになり、取引条件を譲歩出来ないかつての名門は魅力ある商品を失い、結果として集客力が落ちてしまいます。

やがて、資産運用の世界にもユニクロが登場しました。それはヘッジファンドだったり、ヘッジファンド並みに革新的なアクティブ運用のファンドだったりしますが、従来の常識に囚われない運用手法を用いることで、圧倒的なエッジを作りあげています。こうした新興勢力は自社のブランドイメージは勿論のこと収益性についても非常に大切にしているので、敷居だけ高くてあまり役に立ちそうもない大手金融機関(流通業界で言えば名門デパート)との提携には乗り気ではありません。むしろ、効率的な新興販売チャネルであるインターネット専業証券(ターミナルビルやショッピングセンター)を使ってみたり、或いは自前の証券会社(直営店舗)を作ったりもしていました。

そして、遅ればせながら最近になって名門デパートの反撃も始まりました。まず、かつては『商品を置かせてやる』という態度で販売していたファンドに対しても『売らせてもらう』という姿勢に転じて、販売手数料等の水準も随分と引き下げているようですし、取り扱う商品についてのエキスパート(ただ担当者を置くという話ではなく専門家と呼べるレベルの人材です)を採用したり育成しようという動きも活発です。商品の本当の長所も短所も知り尽くした上で評価してくれるバイヤーの存在は商品供給元にとっても心強いですし、自分達の言葉で商品の魅力を語れるセールスマンのいる売り場は、お客である投資家にとっても自然と足を運びたくなるものだと思います。優れた商品を仕入れる次は、中途半端な自社ブランド商品のリストラです。○○銀行や○○証券では同じ系列の○○アセットマネジメントの商品ばかりを前面に押し出して売っているというのが典型的な光景でしたが、最近の目の肥えたお客さんは世界の一流の商品にしか興味がありません。数年前から、社外の商品も積極的に売るオープンプラットフォーム形態を取る業者が増えていましたが、最近は更に進んで、自社ブランドを畳んだり縮小した上で、一流の運用会社を自社グループに取り込もうというM&Aも非常に活発になっています。昨年来のシティグループ、メリルリンチ、ABNアムロ、シュローダー等における資産運用部門のスクラップ&ビルドに関するニュースは一般媒体でも取り扱われていたように思いますし、日系金融機関でも昨年は住友信託銀行やみずほ証券などによるファンド・オブ・ファンズへの出資が日経新聞で報じられていました。実は大手金融機関が自社の運用部門を切り離したり、有力なヘッジファンド等への出資をするのは、外部販売用商品ラインアップのリストラ以外にもいろいろと理由はあるのですが、成長が見込まれているとはいえカネだけでなく時間もかかる資産運用というビジネスについて、各社ともに中途半端なコミットメントを排して何らかの形で合理的な事業計画を策定することが求められているのは間違いありません。そして、このビジネスで成功を収めようと目論むのであれば、安易な場所貸しだけでなく、きちんと目利きの出来るカリスマバイヤーと熱心なセールスマンが一体となって投資家をリードしていくという気概と能力が不可欠でしょう。直近に流行ったものの後追いでなく、今後の収益機会が何処にあるかという視点で品定めをするという姿勢が大切なのは言うまでもありません。
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by th4844 | 2006-03-17 05:50 | Hedge Fund


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