2005年 12月 29日

オフショアセンターというビジネスモデル

英領ガーンジー島は、フランスのノルマンディー地方の北東の沖合に位置していて、ロンドンからはプロペラ機で45分くらいの距離にあります。伊豆大島を二回りくらい小さくしたくらいの面積に6.5万人(ちなみに伊豆大島の7倍くらいです)が暮らしています。もともとは酪農くらいしか基幹産業がなかったようなのんびりとした雰囲気の島で、4年程前に初めて訪れた時にも人間と牛と自動車とヨットの数が同じくらいなのではないかという錯覚を覚えたほどです。しかし、最近のこの島の変貌には目を見張るものがあります。聞けば、ここ3年くらいの間に人口は1割以上増加しているそうです。



金融関係の方ならご存知かもしれませんが、ガーンジーはいわゆるオフショアセンターで、OECDからもタックスヘイヴン(租税回避地)に“認定”されています。世界的なファンド・ブーム(この何とも安易なネーミングは好きにはなれませんが・・・)の恩恵もあって、今、オフショアビジネスは目覚しい発展を遂げています。ファンドの設定から運用における事務一般を担うアドミニストレーターやカストディアンと呼ばれる銀行の他、監査法人や法律事務所といった関連産業にも雇用機会が増えているので、島外からスキルを持った労働者の流入が続いています。そして、労働人口の増加に合わせて2次的な雇用機会が増え、それがまた島内のインフラ整備の進展を通じて、英国本土から温暖な気候を求めて移住して来る人や、別荘を建てる人をも呼び込むという好循環が生まれています。私は年に1~2回ほどガーンジーに出張する機会があるのですが、確かに行く度に金融機関のオフィスが増え、レストランが増え、最近はちょっとしたインテリジェントビルと言っても恥ずかしくないような立派なビルまで建ち始め、空港の滑走路とターミナルビルも増強されています(以前はスーパーの駐車場に小屋が立っているといった寂しい風情でした・・・)。

タックスヘイヴンのオフショアセンターといえば、これまではケイマンやバミューダといったカリブ海に浮かぶ英国領の島々が有名でした。例えば、ファンドはケイマン籍、アドミニストレーター&カストディアン&監査法人もケイマン、運用会社はニューヨークというのがよくある米国のヘッジファンドのパターンです。欧州系のヘッジファンドでも、ファンドはケイマン籍、運用会社はロンドンでFSA登録、アドミニストレーター&カストディアン&監査法人はダブリンというのが典型例です。ところが、最近は欧州のヘッジファンドについては、ファンドをガーンジーに置くケースも増えているようで、ガーンジーは、今後ダブリンやルクセンブルクといった準オフショアセンターと並んで、欧州のファンドビジネスのメッカになっていく可能性を秘めています。

こうしたガーンジーの急成長の背景にはどんなことがあるのかと言えば、欧州で運用されるヘッジファンドにとっては、ファンド本体から関連業務までを大西洋の向こう側に置いておくのが『不便だし、あまり好ましくもない』という認識が広まりつつあるためと言えそうです。というのも、2001年のエンロン事件を契機として、ファンドの世界でもコーポレートガヴァナンスに関する当事者・規制当局の意識が飛躍的に高まってきているのです。以前は、ファンドという会社(または信託)の存在はほぼ全くといっていいほど形式的なもので、ファンドのディレクター(信託の場合はトラスティーも)などは全て運用会社の役員等の身内で固め、取締役会も事実上はただの紙切れの上だけでのことでしたし、ファンドの監査にしても、捻くれた言い方をすればアドミニストレーターが作成した基準価額計算書にぺろっと監査証明のレターがくっついただけといった程度のものでした。ところが、最近はファンドの取締役会もきちんと開催されてディレクター達も物理的な出席が原則になりつつありますし、ファンドの運営に伴うルーティンのペーパーワークのボリュームも格段に増えています。そうなって来ると、欧州の運用会社にとっては物理的な移動や時差の無い事務フローを考えればファンドをカリブ海ではなく近所のガーンジーに置いておく方が、いろいろと使い勝手が良いということになります。ガーンジーでは、『ファンド・アドミ業務における質の高いプロフェッショナルが豊富』ということを盛んに謳ってファンド及びファンド関連ビジネスの誘致を積極的に行っていますが、確かにカリブ海の某所などは、あまりにもリラックスした職業倫理が円滑な業務遂行に支障を来たしているようなケースも散見されますので、やっぱりある程度まともな人材がプールされているという点は有効なセールスポイントだと思います。ちなみに、ファンドの監査についてですが、最近はいろいろとファンドの保有資産(有価証券)に関する情報やその評価方法、はたまた運用会社における運用プロセスについてのデュー・ディリジェンスといったことまで調べようとする事務所も出てきています。監査される側としては、監査に要する時間と費用が増えるだけなので『うるさい』とか『迷惑な話だ』などと思ってしまう訳ですが、他方で監査を請け負う側の立場にすれば、ほとんど定額みたいな手数料で無限責任を負わされるというのは、これまたたまったものではないでしょうから、『好きでやっているのではない』というのはお互い様かもしれません・・・。やはり、こういう動きを一番歓迎しているのは、投資家(特に機関投資家)ということになります。911以降のテロ対策絡みで浮上したマネーローンダリングの問題ともあわせて、やはり投資家としても“専門家のお墨付き”があると、様々な意味でのリスクヘッジになるため、こういうものへの出費は惜しみません。

話が少しそれましたが、最近のガーンジーの急発展を見ていると、優遇税制とある程度の質の高い知識労働者、それに風光明媚な立地といった要件を兼ね備えた場所であれば、ファンドの誘致による地域振興というビジネスモデルが相当機能するものだということを実感できます。日本でも、沖縄をそういったオフショアセンターにするという計画があったように記憶していますが、その後何か進展はあったのでしょうか。本当に有効な地域振興策なのではないかと思うのですが・・・。
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by th4844 | 2005-12-29 07:31 | London, UK, Europe


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