2005年 12月 23日

LBOを支えるヘッジファンド、相乗りするヘッジファンド、逆手に取るヘッジファンド

クリスマス休暇シーズンでマーケットもだいぶ閑散としてきたようですが、今月はハイイールド債市場では注目のハーツの大型起債がありました。日本の事業債なら500億円あれば大型起債と言われるところですから、いかに懐の深い米国のハイイールド債市場といえど、今回の総額3,000億円近い起債はやはりそれなりの規模ということになります(規模でいえば今年2番目のサイズだそうです)。

レンタカー大手のハーツはフォードの虎の子とも言える優良子会社でしたが(ちなみにその昔はGM傘下だったようです・・・)、フォードが経営危機に瀕していることから、この9月に大手LBOファンド等の投資家連合へ総額150億ドルでの売却が発表されていたものです。この辺りのことはharry-gさんのウォールストリート日記やdiwaseさんのハーバード留学記に詳しいですが、両氏が書いていらっしゃる通り、やはりこの様な超大型のLBO案件が成立するのも、それを支えるだけのデットがついてこその話です。確かに、各種レポート等を読む限りではハーツのキャッシュフローの堅実さやLBOしたエクィティ投資家のスジの良さなどには広範な支持があったようですが、それでもやはりこれだけの規模の案件ですから、『本当にDe-lever出来るのか』という極めて真っ当な疑問を呈する向きも少なからずありました。格付け会社もやや厳し目の評価を下しています。ハーツの再建の可能性についてのデットマーケットの投資家のコンセンサスがどの辺りにあるのかを見極めるのみならず、2006年のクレジット市場の行方を占う上でも、今回の起債のプライストークがどうなるのか、大きな関心を持って本件を見守っていました。しかし、蓋を開けてみればそんな懸念はどこへやら。どうやらロードショーの段階からかなりの引き合いがあったようで、ローンチスプレッドもマーケティングレンジの下限での決定となりました。また、ほぼ同時期にローンチされたバンクローンも同様にかなりのOversubscriptionとなったようで、セカンダリーでのクォートも堅調に推移しています。



LBOブームを支えるヘッジファンド

ハーツの起債をこなした後も、ハイイールドマーケットは堅調ですし、担保付社債やローンも同様です。一体なぜ、こんなにデットがつくのでしょうか。確かにここ数年、米国企業のファンダメンタルズも強かったですし、歴史的な低金利という追い風もありましたが、やはり一番の理由はyield-hungerなどと揶揄されるくらいに投資家サイドの買い意欲が強いということに尽きるのではないでしょうか。過大なALMギャップを抱えて低金利に喘ぐ年金や生保、そして“アブソリュートリターンの期待”という見えない負債を抱えたヘッジファンドなどから、まるで水が高いところから低いところへ流れるように、ハイイールド、バンクローン、ABSといったマーケットにどんどん資金が流入してきました。明らかに、デットマーケットでLBOを支えているヘッジファンドというものが存在しているわけです。

LBOブームに相乗りするヘッジファンド

そして、中にはエクィティ投資家としてLBOに参加しているツワモノのヘッジファンドもあります。ただし、一般的にはヘッジファンドが投資家に約束している標準的な解約条件はPEファンドと比べるとかなり緩いので(この種の戦略でも四半期毎とか半年毎に解約可能というケースが多いです)、バイアウトにエクィティで参加出来るのは、超大型ヘッジファンドがポートフォリオの一角を使って行うといったケースに限定されているといえます。本業はあくまでもマーケットでのトレーディングに置きつつLBOブームにもちゃっかり相乗りしている、と言えるかもしれません。ちなみに、バイアウトやアクティビストといった“モノを言う投資家”といったスタイルこそがメディアで喧伝されているヘッジファンド像に近そうですが、実際にこんな芸当が出来て、しかも実践しているヘッジファンドというのは、ごく一部の超大型ファンドに限られています。その他大勢のヘッジファンドは、もっと地味な作業をコツコツ続けています。

LBOブームを逆手に取るヘッジファンド

そして最後に、今日の本題であるLBOブームを“逆手に取る”ヘッジファンドについてです。繰り返しになりますが、LBOをするPEファンドにとっては、デットを使ってギリギリまでレバレッジを効かせるからこそ旨味があります。これは裏を返せば、レバレッジの水準が上昇すればするほど、既存の債権者、即ちデットホルダーにとってはデフォルトリスクが高まることになりますから、LBOのターゲットとなった企業の社債のマーケットバリューは基本的に下落します。そこで最近は、こういったLBOの対象になりそうな銘柄を発掘して、その社債を空売りするという、いわばクレジット版のショート・セラーが、少しずつ出てきているのです。巨大なPEファンドにぴったりくっついておこぼれをもらうコバンザメのような、いかにもヘッジファンドといった感じの投資戦略ですね。実際に企業が様々な社債やローンをローンチする際には、債務の返済順位に始まって、担保の有無やその抵当権の順位、そして優先・劣後の返済順位に応じた各種債券の発行可能額等を細かく規定したりするので、LBOになったからと言って必ずしも全てのデット投資家にマイナスになる訳ではありません。しかし、covenantと呼ばれるこうした各種特約の内容は決して一様ではないため、それこそ一本一本のIssue毎に調べていくと、やはりそれなりにショートしやすい美味しい銘柄が見つかるようです。

ただし、このようなクレジットショートの戦略はネガティブキャリーという、かなり目に見える形のリスクを背負っています。社債を空売りする=自身が債務者になるのと同様のキャッシュフローが発生する=利払いが発生するということなので、ヘッジファンドとしては空売りした社債の値下がりから、利払いの負荷を補ってあまりあるだけの収益を上げ続けないといけないわけです。単純化して考えると、例えばクーポン12%のハイイールド債をショートしたとすると、ショートのポジションから1年間に15%儲かっても、グロスで3%の収益しかあがらないので、各種手数料等を控除すると、ネットのリターンは殆どゼロになってしまいます。こうしたネガティブキャリーのプレッシャーを少しでも軽減すべく、最近出てきているヘッジファンドには、利払い負担が比較的少ない投資適格の社債をショートするマネージャーが多いようです。ネガティブキャリーの負担の他にも、投資適格債にはデットによる資金調達制限に関して比較的甘いCovenantのものが見られるという点や、そもそも投資適格債が発行できるということは、それなりのキャッシュフローがあって魅力的なLBOのターゲットになりやすいという点も、投資適格債がショートに適している理由としてよく挙げられます(いずれも、私は自分で確認したことは無いのですが・・・)。あとは、社債のショートではなくてクレジットデフォルトスワップを買うという遣り方もありますが、これとて継続的なキャッシュのアウトフローこそないものの、CDSのプライスにはそれなりのものが織り込まれているので、損益という観点では投資効果はあまり変わらないはずです。

今年はかなり大型のLBOが続いていましたが、何と言ってもクレジット市場が強かったので、やはりこれまでのところはクレジットショートという戦略が機能するだけの下地は整いきっていなかったと思います。ところが、これまでの過熱相場を支えてきた、①超低金利、②健全な水準に抑制されたレバレッジ、③堅調なキャッシュフロー、③低水準のデフォルト率、といったファクターのうち、①と②は既にかなり変化しており、③と④も来年はかなり企業間格差が出てくるといわれています。そういう意味で、LBOで拾われるかもしれないという個別銘柄の収益機会に加えて、ようやくマクロ的にもクレジットショートのチャンスが巡って来そうな気配です。今すぐ投資を検討するかと訊かれれば、まだまだプレーヤーの数も限られていることもあって、もう少し様子を見てからにしたいという気もしますが、それでも来年の展望という意味では、注目の戦略の1つと言えそうです。


*クレジットまわりのことはまだまだ勉強中ですので、文中に当方の誤認などがありましたら、厳しくご指摘頂けると助かります・・・。
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by th4844 | 2005-12-23 08:32 | Hedge Fund


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