2005年 12月 09日

英国におけるヘッジファンド規制

少し前のことですが、ロイターにこんな記事がありました。FSAが在英の主だったヘッジファンドマネージャーを招いて意見交換のための朝食会を開くことになっていて、しかも1万円相当の会費を徴収するということで、呼ばれた方のマネージャー達が『勝手に呼びつけておいて、しかもカネまで取るとはどういうことだ!』と怒っているという内容です。この記事自体は『1万円もする朝食会なのに、サーブされるのはクロワッサンなど簡単なもののみで、ベーコンエッグも出て来ないようだ』など、やや面白おかしく書かれ過ぎているきらいがありますが、確かにFSAがヘッジファンドマネージャーとこうした類の非公式の会合を頻繁に持っていることは良く知られています。




FSAは今年の6月に公表したディスカッションペーパーにおいて、ヘッジファンドに関連して金融当局が検討すべき問題は大きく分けて2つあると論じています。1つは、市場においてこれだけインパクトの大きくなったヘッジファンド自体に対する規制というものがどうあるべきかという問題で、もう1つは、ヘッジファンドに投資する投資家を保護する観点から、ヘッジファンドの販売に対する規制、とりわけリテール向けチャネルの規制をどうするべきかという問題です。FSAはもう随分前からこうしたヘッジファンドに関する研究に取り組んでいて、ディスカッションペーパーという名の論点整理の中間報告が出てくるのも今回で2回目です(前回は何と3年も前のことでした)。そして、前回と同様に今回も『当局としては、こういうところに問題がありそうだと考えていろいろと研究を進めているのだが、こういった整理の仕方に異論はないか?意見があれば是非とも聞かせて欲しい』といった形で、ペーパーを公表すると同時に7月から10月までの3ヶ月間、業界関係者の意見を広く募って(弊社でも早々に意見書を送付しました)、現在は庁内で集まった意見の消化作業が始まっているはずです。そして、こうした公式のプロセスと並行して、冒頭でご紹介した朝食会のようなものをオーガナイズすることによって業界のキープレーヤーとの本音のディスカッションの場を確保しようと躍起になっているのです。

今や米英日の証券取引所の取引量に占めるヘッジファンドの割合は3分の1から半分くらいに達していると言われており、その影響力は市場の異端というよりも、もはや主役というに相応しいものになっていますので、ヘッジファンドについて知ることや考えることこそがマーケットについて知ることや考えることを意味するような状況になりつつあります。だからこそ、世界中の金融当局がヘッジファンドに対する規制の在り方について、あれこれと思案を巡らせている訳です。ところが、各国当局のヘッジファンド問題に対する取り組みのスピードやアプローチは決して一様ではなく、この問題が如何に難しいテーマであるかを物語っていると言えます。例えば、米国と英国がヘッジファンドとの共生の道を探ろうとしているのに対し、大陸欧州はとにかくヘッジファンドは怪しからんという、やや感情的対応に終始しています(または大衆受けを狙った政治家のパフォーマンスの影響を排除出来ていない・・・)。日本は良くも悪くもまだ方向性が定まっていないような印象を受けますが(水面下ではいろいろとあるのでしょうが・・・)、ヘッジファンドを規制するというよりは日本の投資家のヘッジファンドへの投資を制限するようなポーズを取っています。

さて、たった今『米国と英国は・・・』と一括りにして書いてしまいましたが、実はFSAとSECのヘッジファンド規制についての考え方は、かなり異なっていて、なかなか興味深いものがあります。一言で言えば、米国がかなり劇的に厳格化させようとする方針を打ち出しているのに対し、英国の方はもう少し冷静というか現実的な姿勢を貫いていると言っていいかもしれません。例えば、SECは米国市場で取引をしているヘッジファンドと米国の投資家から資金を預かっているヘッジファンドの運用会社に対して、一部の例外を除いて来年2月から一斉にSECへの登録を義務付けることになっています。登録する内容というのは、運用会社の概要(株主構成、取締役、監査役、コンプライアンスオフィサー、業容、運用資産規模、関連会社等)や主要スタッフ個人の経歴や法令違反暦、運用商品の概要といった極めて形式的なもので、あとは定期的にSECの検査を受け入れる義務が発生することになります。こういった“登録”は、従来から投資信託の運用会社には義務付けられていたので、公平性という意味ではそれなりに説得力はあるものの、金融業界からは、こうした新規制の導入がヘッジファンドの実態の把握や(形式的なものでなく・・・)、ヘッジファンドの破綻や詐欺に伴うシステミックリスクの抑制に一体どれほどの実効性があるのかを疑問視する声が根強いです。それどころか、SECの内部からも、『今回の一斉登録を受け付けて内容を吟味し、今後実地の検査をしていくだけのリソースが無いので、形式要件の整備を重視するあまり、本質的なポイントに目配りが出来なくなる』といった懸念の声が漏れてきます。これに対し、FSAの方は、『ヘッジファンドと一口に言っても、その大半はサイズも運用手法も市場全般に大きな影響を与えるようなものではない。動員出来るリソースが有限である以上、市場を預かる当局として本当にやるべきことは、そうした人畜無害なものまで含めた全てのヘッジファンドを網羅的に広く浅く管理・監督しようとすることではなく、運用資産数千億円規模の少数のキープレーヤーについて重点的にモニターしていくことではないか。』『正直に言えば、ヘッジファンドについての規制を話し合う前に、まずはヘッジファンドの実態を知ることが大事ではないか。一方的にルールを策定するのではなく、まずは実務家の意見を聞いてみよう』というアプローチを取っています。ちなみに、FSAは従前から英国内に拠点を構える運用会社に対して自発的な登録を強く促しているため(全ての運用会社に対する義務ではありません)、実際には英国内のヘッジファンドはその殆どが既にFSAに登録済で、定期的に検査も受け入れています(冒頭でご紹介した記事でも、朝食代1万円に激怒しているマネージャーは、『FSAに毎年登録料として1000万円も払っているのに、その上さらに1万円の会費を取るのか!』と言っています)。こういった功利的アプローチは概ね業界内でも賛同を得ており、ヘッジファンド規制に関してはFSAがSECの数年先を進んでいるといった評価が定着しています。勿論、SECにも合理的な考え方のスタッフはたくさんいるようですが、この分野では、どうやら目立ちたがりの政治家の介入が激しくて大変なようです。もっとも、FSAも他の分野では不可解な動きも見られるので、やはりどちらが優れているとかいった議論にはあまり実があるとも思えませんが・・・。

ちなみに、FSAのディスカッションペーパーは、結構なボリュームですが、でもそれだけ読み応えのある内容です。細かい点はさておき、全体的にはヘッジファンド業界の孕む様々な問題点についてよく纏まっていますので、また機会を改めて紹介していきたいと思っています。
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by th4844 | 2005-12-09 09:00 | Hedge Fund


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