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2005年 12月 06日

『20~30歳代社員の75%が仕事に無気力』は本当?

75%が仕事に無気力=20~30歳代社員-野村総研調査

上場企業の20―30歳代正社員の75.0%が「現在の仕事に無気力を感じている」ことが、野村総合研究所が5日発表した「仕事に対するモチベーションに関する調査」で分かった。4割以上が転職を希望しており、同社は「仕事での成長実感や社会的意義を感じられず、容易に転職を考えがちな若者の姿が浮き彫りになった」としている。 (時事通信) - 12月5日15時1分更新


何ともセンセーショナルな調査結果ですが、『ん?絶対にそんなことはないだろう』と思ってニュースソースを当たってみました。確かに調査を行った野村総研は

『今回の調査から、仕事での成長実感が薄く無気力を感じ、仕事に対する社会的意義も感じられず、容易に転職を考えがちな若者の姿が浮き彫りになりました。現在の仕事に対して無気力を感じる人は75.0%(「よく無気力を感じる」16.1%、「ときどき無気力を感じる」58.9%)でした』

という結論を導出して、退廃的な若者の就業モラルについての危機感を煽っています。

しかし、無気力な若者というレッテルを貼られた集団の大半を占める『ときどき無気力を感じる』人のかなりの部分は、きっと『ときどき充実感も感じている』と考えるのが自然でしょうから、そうだとすれば、問題視すべきは『よく無気力を感じる』の16%のみとなるはずです。これって、そんなにびっくりするような数字ではないですよね。どちらかというと、思ったよりも健全なくらいです。





ちなみに、野村総研の発表をもう少し読み進めていくと、

『今後の就業意向については、「定年まで勤めたい」は17.9%に過ぎず、「あと10年以上は勤めたい」(9.9%)と合わせても長期定着意向は3割にも達していません。逆に、「機会があればすぐにでも転職や独立をしたい」(18.7%)、「3年以内に転職や独立をしたい」(13.0%)、「あと5年ぐらい勤めたい」(12.3%)を合計した潜在的な転職志願者は44.0%(図4)となっています。』

とありますが、これも『潜在的な転職志願者が44%もいる』は大して驚く数字ではないですよね。私にとっては、どちらかといえば『定年まで勤めたい人』がまだ17.9%いることの方が意外に感じられました。そして、せっかくこういう数字が取れたのですから、今度は上場企業の経営者に『従業員を定年までの雇用を保証したい』という声がどれくらいあるのかという調査も実施して欲しいところです。おそらく両者の間にあまり大きなミスマッチは無いのではないでしょうか。いつも書いていますが、変化の速い時代ですので、企業の寿命やビジネスモデルの寿命が1人の人間の職業人生よりもよっぽど短命になってしまっています。日本は、社会的に労働市場の流動化の健全な促進とそのセーフティネットの整備(勿論、無意味なミルク補給ではなく再就職支援の意味ですが・・・)がまだまだ足りないですね。逆に言えば、そういう分野にはまだまだビジネスのオポチュニティがゴロゴロしている気がします。

さらに突っ込みを入れさせて頂くと、

今回の調査では、若手がやりがいを感じる仕事についても聞きました。それによると、「報酬の高い仕事」が29.0%でトップでしたが、以下は「自分だけにしかできない仕事」(22.0%)、「新しいスキルやノウハウが身につく仕事」(21.8%)、「自分の実績として誇れる仕事」(21.5%)が上位にきています。(中略)“挑戦機会や成長機会の豊かさ”と“豊かなフィードバック関係”がモチベーションにつながっているようです』

という整理の仕方をしておきながら、なぜかその後に出てくるコメントは次のようになっています。

働くモチベーションをお金と地位だけに頼ることには限界があります。また、お金や地位には資源の制約がありますが、挑戦機会や人間関係から生み出されるやりがいは、使えば使うほど豊かになり、強い組織文化を醸成します。人材の採用や引き留めにも効果が高いでしょう。したがって、今後はお金以外の面で若者にやりがいを感じさせることが、企業の経営戦略に効果的であると、NRIでは考えます。

フリーターやニートは、2010年までにますます増加すると言われています。そのような状況下で、2010年以降は、若者の働く意欲を再生できるかどうかが、企業の競争軸の一つになるでしょう。


はたして、再生すべきは若者の働く意欲なんでしょうか。この調査結果だけ見ても、“若者”は自分の成長機会とそれに対する正当な評価に対して極めて貪欲であるような印象を受けますし、知人を見渡してみてもそういう認識に誤りは無いと思います。『お金や地位には資源の制約がある』のはその通りですが、だからこそその限られた資源の使い方が大切なのです。若者が欲している、『自分だけにしか出来ない仕事』や『新しいスキルやノウハウの身につく仕事』、『自分の実績として誇れる仕事』、或いは『挑戦機会や人間関係から生み出されるやりがい』の大半は、『地位(=責任あるポジション)』なくして与えることは出来ません。そして地位と責任を与える以上それに見合うだけの『お金』を与えることも当然のことです。ここでの調査対象となっている上場企業に勤務中の若者が欲しているのは、実力主義の透明な労務体系であると読み取ることが自然ではないでしょうか。

勿論、そうしたやや競争的なキャリア志向は、決して20代・30代に属する全ての人間が望んでいるわけでもないでしょう。統計結果が示す通り、そういう回答がやや多かったという程度の認識であるべきです。わざわざ指摘するまでもありませんが、上場企業に既に就職している若年・青年層の処遇を見直すことと、なぜかここでどさくさに紛れて一緒に議論されている『フリーターやニート』の増加傾向に歯止めを掛けることとは別の対応が必要かと思います(ややもすると、全く逆の志向があるので)。

『NRIは今後も将来の日本を担う若者の仕事観に注目し、企業経営者の取るべき対応を探っていきます。

などと高らかに宣言していますが、なんだか顧客である『企業経営者』が聞きたいような耳障りの良い結果を無理矢理捻り出している、と言ったら言い過ぎでしょうか。野村総研だって営利団体。こんなものは近日発刊予定という本の宣伝用なんだからいちいち相手にしていても仕方が無い、と冷めた目で眺めていればいいのかもしれませんが、国を代表するシンクタンクがこういうまず結論ありきのレポートをバラ撒いているというのは、何だか恣意的なものを感じてしまいます。残念なことです。

職場での年功序列・終身雇用がde facto standardとなっていて、老後の社会保障も子供や孫の世代が面倒を見てくれる。そんな夢のような前提が崩れた今、これからの世代は自力で自分の将来を切り開き蓄えを作っておかないといけないというプレッシャーの下で暮らしている訳ですから、昔の人たちよりも経済的な利害に敏感になったり、コミュニティへの帰属意識が希薄になってしまうのは当然の帰結です。若者の行動様式が数十年前の自分達と違うと言って嘆くのは古今東西普遍の人間の性なのでしょうが、やや持続不能なほどに贅沢な社会設計をいつまでも引っ張り続けてきた世代の方から、一方的に若者をひと括りにして“不思議ちゃん”扱いしようとするのは、あまりフェアではない気がします。勿論、同様の理由で、我々の世代も、建設的なアクションも起こさずに全てを老害のせいにして、いつまでも愚痴をこぼしたり閉じこもったり反社会的行動に訴えたりすべきでもありませんね。再生すべきは若者でも老人でもなく、日本という国の在り方そのものであることは、誰の目にも明らかなはずです。
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by th4844 | 2005-12-06 06:13 | Career


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