Cutting Edge

cedge.exblog.jp
ブログトップ
2005年 12月 02日

最近のディスカッションから

最近、日本の証券会社の方々のご訪問を頂いて、ヘッジファンドやその周辺産業の動向について個人的な意見交換をする機会がありました。先方はこれからファンド・オブ・ファンズの新商品を投下するとのことで(残念ながら今回は弊社の商品ではないのですが・・・)、いろいろとその準備に奔走していて、大変充実しているようでした。席上たくさん質問を頂いたので、私見と断った上でいろいろとお話をさせてもらったのですが、ひとつ気になったのが、先方が発した『今年は軒並みパフォーマンスが厳しいですよね。特にロング・ショートとイベント・ドリブンが結構やられてしまって・・・』という一言でした。




今年の年初来のヘッジファンドのファンド・オブ・ファンズのリターンは、典型的な分散型のポートフォリオで、10月末までにドルベースで概ね5%前後といったところが相場のようですので、少しパフォーマンスの悪いものですと円換算するとネガティブになりかねないような情勢となっています。大半の投資家が“ヘッジファンド”という魔法のような響きに期待するのはもうちょっと刺激的な水準のリターンでしょうから、そういう意味では『今年は厳しい』という認識は全くその通りだと思います。ただ、私の知る限りでは、ロング・ショート戦略とイベントドリブン戦略は、どちらかというと今年のリターンを牽引しているセクターなので、果たしてこの彼我の認識のギャップがどこから生じたのか、少し興味が湧いたのです。

まず考えたのは、一般的にロングショートとイベントドリブンは極めてマネージャー間のリターンの差が如実に現れやすい戦略であるということです。債券系のアービトラージやCTA等がイールドカーブやクレジットスプレッド、ボラティリティ、或いは商品先物相場といったマーケット全体の動きに大きく着目するのに対し、ロングショートやイベントドリブンのマネージャーの多くは、そうした市場要因(いわゆるベータやシステミックリスク)の影響をある程度排除した上で、個別銘柄に特有のファクター(いわゆるアルファ)をより重視する戦略なので、マネージャー毎に着目するテーマが違う分、必然的にそのパフォーマンスにも比較的大きなバラツキが出てきます。そうだとすれば、『弊社が投資しているロング・ショートやイベントドリブンのマネージャーのパフォーマンスは良かったものの、先方の見ているマネージャーは冴えなかった=弊社の運用能力の高さが証明された』という嬉しい結論が導出されかけますが、残念ながら弊社のファンド・オブ・ファンズの今年の運用成績は、だいたい業界平均近辺に位置していますので、先方が凄まじくパフォーマンスの悪い業者のファンドを掴まされてしまったのならともかく、恐らくこの推論は自社に都合の良すぎる解釈ということになります。しかも、ロングショート戦略に関してはここ1~2年は、どちらかというと市場要因の影響を大きく受ける傾向にあって、程度の差こそあれ、ある程度リターンの相関が高まってきているので、やはりこの推論は成り立ちそうもありません(例えば、2003年後半から続いているエネルギー関連相場のように非常に強いモメンタムが出現すると、ファンダメンタルから見て割高な銘柄でもどんどん買われてきたので、ほとんどのマネージャーが、純粋なストックピッキングに固執するよりも、市場参加者のセンチメントやトレンドを重視してベータリスクを積極的に取りに行ったため、やや似たような運用結果が出てきています)。

私が思うに、先方の『今年は・・・とくにイベントドリブンとロングショートがやられて・・・』という感想は、恐らくは通年のリターンの水準そのものというよりも、何度か目立って“やられた”月があったことが原因になっている気がします。というのも、HFRIのFoFsインデックスで見ると、今年はGMの格下げショックがあった4月と、原油価格の高騰に一旦調整が入った10月に、それぞれ1%を超える損失が生じています。株価や原油価格であれば1ヶ月で1%程度動いても何の驚きもありませんが、過去36ヶ月間の同インデックスの安定したリターン(月平均0.6%強)とボラティリティ(月次1%弱)から考えれば、単月で1%の損失は約2年に1度起きるかどうかという確率になります(1.75標準偏差=発生確率4%)。つまり今年は、2年に1度の頻度でしか経験しないと思われた単月1%以上の損失を既に2回も経験した“ひどい年”ということになります。そして、その両方の月において、ロングショートとイベントドリブンがやや大きな損失を被ったので、両戦略ともに他の月にはかなりのリターンを記録しているにもかかわらず、今年の冴えないパフォーマンスの元凶という誤解すら生んでしまっていると考えられます。さらに4月、10月ともに、殆どのロングショートとイベントドリブンのマネージャーが揃って損失を記録してしまったことも、投資家の落胆を誘ったものと考えられます。理想を言えば、同種の戦略の中でもある程度の分散投資効果が発揮されて、ネガティブリターンになるマネージャーがいても他のマネージャーがそれを補完するような形になればいいのですが、実際には前述の通り、ロングショートのマネージャーの多くが挙ってマーケットリスクを積極的に取りにいき、それもエネルギー関連銘柄やアジア関連銘柄(インドや東アジアに利害のある企業)の組入れをかなり増やしていたので(こういった最近のマネージャー間のフォーカスの重複を“Commonarity”といった言葉で表現することが多いです)、株価が反転する局面では当然ながら彼らのロングバイアスのポジションは大きく毀損してしまいます。勿論、マネージャーとしても、ストックピッカーとしてのオリジナリティをもっと前面に出せればそれに越したことはないのでしょうが、やはり彼らも人生を賭けてヘッジファンドという名のベンチャービジネスを立ち上げている以上、こういう過熱気味のマーケットでは、ゲームに参加するリスクよりも参加しないリスクの方を意識してしまうようです。また、イベントドリブンについては、やはりあらゆるポジションのスプレッドがある程度連動して動くため(例えば、楽天とTBSの株価のスプレッドが広がる時には、不思議なことに日清紡と新日本無線の株価のスプレッドも広がってしまう)、利益確定売りなどが殺到して市場の流動性が低下すると、例え投資しているポジションが異なっていても、どのマネージャーも軒並み評価損が発生してしまうのは避けられません。特に、欧米のM&A市場においてこれだけヘッジファンドのプレゼンスが増大してくると、こうした各案件のスプレッドの動きも、合併当事者間の個別要因よりも、株式市況やヘッジファンドの運用成績・資金流入/流出の動向の影響を受けやすくなってきているのかもしれません。

いずれにしても、今年のファンド・オブ・ファンズはあと1-2%程度の上積みでフィニッシュということになりそうですので(幸い、ロングショートやイベントドリブンも全般的に10月最終週あたりから力強く反発しています)、投資家や販売会社の関心は既に来年に移り始めています。

少し気が早いですが、個人的な予想としては、戦略で言えばやはり引続き株式ロングショートが収益の柱になるのではないかと思っています。ただし、米国の利上げの影響がラグの後にじわりと効き始めれば、ファンダメンタルへの回帰が起きて、数年振りにストックピッキングの機会が出てくるので、短期のオポチュニスティックな取引を重視するトレーダータイプよりも緻密な企業分析を重視したアナリストタイプのファンドに投資妙味が出てくるでしょう。そういう意味で、ポートフォリオ内の入れ替えに着手していない場合は、何らかのアクションを吟味する必要がありそうです(ヘッジファンドは解約・減額にも数ヶ月を要します)。また、これは賛否両論でしょうが、数年間のスパンで考えられる資金であれば、私はCBアービトラージも良いエントリーポイントだと思います。ただし、目下の投資家の関心という意味では、ヘッジファンドの戦略毎の分散も然ることながら、地域別の分散がいよいよ本格化しているようです。もともとヘッジファンドといえば、マネージャーも投資家も米国が本家でしたが、ハイテクバブル崩壊と世界的な低金利を背景にこの5年間でこの業界も随分と深みと広がりが出てきました。欧州では、規模・経験・そしてチームのクォリティにおいて、米国と遜色ない水準に達しています。欧州勢だけで組成したファンド・オブ・ファンズへのニーズももう少し盛り上がってくるものと考えられます。まだ黎明期にあるとはいえ、日本を含むアジア地域も、いよいよヘッジファンド投資に必要なインフラが整ってプレーヤーの数やそこへ投下される資金量が急増していますので、若い市場であるというリスクさえ取れれば、期待リターンのアップサイドも大変魅力的です。ファンド・オブ・ファンズを提供する側も、"the hedge funds"といった趣の幕の内弁当だけでなく、多様化した顧客ニーズに対応出来るようなユニークな商品をたくさん店頭に揃えておくことが至上命題ではないでしょうか。
[PR]

by th4844 | 2005-12-02 07:21 | Hedge Fund


<< Edvard Munch      Commoditization >>