2005年 11月 30日

Commoditization

Commoditization=コモディティ化という言葉は、それまで希少価値があった商品(または商品群)が、徐々に普及していくに連れて機能や品質、ブランドといった差別化特性を失っていき、最終的には価格を主な決定要因とするシェア争いに巻き込まれていく一連の過程、といった意味であるというのが私の理解です。

90年代にはまだ謎めいた存在であったヘッジファンドが、世紀の変わり目くらいを境にして、急激に露出度が高まり、販売会社やファンド・オブ・ファンズを通じてアクセスが可能な存在となり、少なからぬ投資家にとって少しは身近な存在になった結果、リターンやマネージャーの手数料の水準が低下している状況など、まさにこのコモディティ化の好事例であると言えます。だからこそ、ヘッジファンドのマネージャーはより運用能力の高い人材の獲得・養成に努めたり、よりニッチな領域へ投資対象を拡大・シフトさせていったりして、高額の手数料を正当化するための新たな差別化要因の構築に余念がありません。

さて、ヘッジファンドという運用形態のコモディティ化に関連して、最近私がかなり強く意識するようになっているのが、ヘッジファンド周辺産業における人材のコモディティ化です。もっと端的に言ってしまうと、プロフェッショナルとしての私個人のマーケットバリューが相対的に落ち始めているのではないかというプレッシャーを感じたりしているのです・・・。




以前書いたこととも少し重複しますが、5年前に私が今の勤務先に入って来た時、日本でヘッジファンド関連のビジネスに本格的に携わっている方は、本当に数えるくらいしかいませんでした。私のような素人がほとんど競争らしい競争も感じることなく実にあっけなく採用されたという事実に鑑みても、当時のこの業界は参入障壁が高かった分野というよりは、そもそもまだあまり認知されていない市場であったと言えます。とはいえ、何の経験も人脈も知識もなくこの業界に飛び込んで来た私には、当然ながら明日の雇用の保証もある筈もありませんでした。当時知り会った方々の中では、いつも私がダントツで最年少でしたので、どこへ行っても背伸びしていなければいけませんでしたし、きっと上司には随分と冷や汗をかかせてしまった場面もあったと思います。先行者メリットという唯一のエッジを最大限に活かすべく、毎日それこそ昼夜の別なく必死に仕事をこなして、あらゆることを体で学んできました。その過程では、それなりにいろいろなことを犠牲にしたりもしたものです。

そして、そうこうするうちに、ヘッジファンドブームがいよいよ本格化し、毎年毎年、日本を含む世界のあらゆるところから、資金と人材がこの業界に雪崩を打って入り込んで来始めたのです。そうなってくると不思議なもので、例えば私の運用経験がゼロでヘッジファンド業界の経験がたった2年しか無くとも、カウンターパートになるお客様はちょうど先月から外債投資部門から配属されてきたばかりで、ヘッジファンドについては何も知らない、といった状況が頻出してきます。私の付け焼刃のような話でも、『なるほど』と言ってきちんと聞いて下さる方が随分と増え、そうやってお客様との信頼関係が醸成されてくると、今度は社内でのプレゼンスもぐんと高まってきます。最初に飛び込んで来た勇気というか度胸というか若さゆえの勢いのお陰で、入社してから最近までの間は、『かなりの努力が必要なものの、努力すればその分かなりの成果が得られる』という、今思い返してみると随分と幸せな時間が続いてきたと思います。

5年前に『ヘッジファンドのファンド・オブ・ファンズの会社に入る』と言った時、家族や友人は勿論、前職も含めた金融機関の人達にまで、『?』と怪訝な顔をされるばかりでした。きっと、そうした怪訝な顔の中には、『こいつ、変な人にだまされているんじゃなきゃいいんだが・・・』といった意味合いの顔も少なくなかったと思います。今でも、世間一般に知られた業界・業態でないことに変わりはないのですが、それでも、最近プライベートで名刺交換などをすると、少なくとも金融機関の人達の反応は随分とポジティブな(ましな?
)ものに変わってきたと実感しています。少し詳しい方ですと、私の勤務先やその同業他社についてご存知というケースも増えてきました。

しかし、業界や勤務先の認知度が向上するということは、日本におけるヘッジファンドやその周辺産業でまさにコモディティ化がかなり進行している証左でもあります。どうやら、私が東京を離れているうちに、この業界にも同年代の人達が徐々に入り込んできて、そしてかつての私と同じように、凄まじい勢いでぐんぐんとlearning curveを駆け上がっているようです。5年前に業界内に同世代の人が殆どいなかったので、当然ながら、今でも同世代でこの業界に5年の経験を持つ人は殆どいないはずですが、でも、2年、3年の経験を持つ人なら見つかります。私はまだ高給取りの部類に属するとは思いませんが、それでも私よりもちょっとスペックが劣るだけでだいぶサラリーの低い人がいるとしたら、一体どちらが競争力のある人材なのでしょうか。2年と5年であれば、まだ経験値にだいぶ差があるかもしれませんが、将来これが5年と7年くらいの差になるとどうでしょう。もはやその段階になれば、個人としての競争力の大半が経験年数以外の要因によって支配されるようになるのは火を見るより明らかです。私も、新たな差別化要因の構築に向けて、もうちょっと精進しないといけないところです。

もともとヘッジファンドや運用業界に取り立てて興味も知識も無かった私が今の勤務先に飛び込んで来た理由は、たった1つでした。それは、何のアドバンテージもないところで裸一貫から勝負してみて、そしてこの何やらすごそうな壁を乗り越えることが出来たら一体どんな景色が広がるんだろう!という何とも青い知的好奇心だけでした。その後、そのデカそうに見えたその壁をどうにか乗り越えて、ようやく内外で一人前と認められるようになって、そりゃあ随分とホッとしたり誇らしかったりもしました。でも、ホッと一息ついていただけのつもりが、いつの間にか随分と長い休憩になっていたようです。勿論、今も毎日はそれなりに忙しく過ぎているのですが、日々の業務を淡々とこなしてしまうのではなく、中長期的な高めの目標を設定して、そこに到達するために必死に頑張って、その背伸び気味のプロセスから学ぶ ― もうそろそろ次の壁、もっと大きな壁に挑戦したいという気持ちが俄かに沸々と湧いて来ました。その次の壁とやらが何なのか、まだ見えている訳でも決まっている訳でもないのですが、こういうものは能動的に探して見つけ出すというだけでなく、突然ばったり出くわすという要素も強いと思うので(何も転職すると宣言している訳ではないのですが、配置転換や転勤、それに目標になるような人との出会いだってそうですよね?)、とりあえず出来ることと言えば、やはり日々の業務をより充実させていくことになります。東京にうじゃうじゃいるであろう同業の若いライバル達の追撃を振り切れるよう、そして私よりも一回りも二回りもこの業界で経験を積んでいるパイオニア達に少しでも追いつけるよう、私は今ここロンドンにいるという地の利を活かして、来年はこの業界のことをもう一段深く掘り下げて勉強していこうと思います。あとは、学んだことの整理の仕方や見せ方ですね。このブログを通じたアウトプットのトレーニングも含めて、もう少し頑張っていきたいところです。
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by th4844 | 2005-11-30 07:24 | Career


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