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2005年 11月 06日

Hermes

Hermes(フランス語ではエルメス、英語ではハーミーズ)とは、ギリシャ神話における神々の使者で、転じて伝令・雄弁・旅・商業の神を指すそうだ。今日はあのフランスのエルメスではなく、英国のハーミーズのお話。

ハーミーズは運用資産600億ポンド(約12兆円)を誇る英国最大規模の年金運用機関である。その生い立ちも含めてちょっと複雑な存在なのだが、誤解を恐れずに大胆に説明を省かせて頂くとすれば、BT(British Telecom=分離分割前のNTTのような存在)が自らの年金資産運用のために抱えている子会社であるといえよう。ただし、最近は他の年金や生損保、政府機関、慈善信託等の資産の受託にも積極的で、現在は大小あわせて200件以上の外部顧客を有しており、BTPS(BT Pension Scheme)からの受託は運用資産のうち60%程度まで低下している。

さて、サイズや外部資産取り込みの積極性もさることながら、ハーミーズをもっとも有名にさせているのが、そのアグレッシブな投資方針であろう。ALMなどまるでおかまいなしの株式主体のアセットアロケーション(BTPSの2004年の年次報告によれば、英国株と外国株の合計の組み入れ比率はなんと7割近い!)と、その結果としての株式市場への強大な影響力を活かした“モノを言う株主”としての積極的な議決権行使、そして最近は欧州の年金基金としては極めて珍しい、ヘッジファンドへの直接投資(一般的には、私の勤務先のようなファンド・オブ・ファンズを通した間接投資が主流だが、ハーミーズは自社でFoFsを組成して外部の投資家の資金も積極的に受け入れている)。

とりわけ議決権行使については、気に入らない議案にNoを突きつけるのは勿論のこと、最近はより積極的にアクティビストとしての投資機会の発掘に貪欲だ。コーポレートガヴァナンスやバランスシートの改善によって企業価値の向上が期待でき、かつそれが(大)株主としての積極介入によって実現出来そうな企業をターゲットとして、内外の資金をどんどん投下している。ハーミーズのメインスポンサーであるBTPSも、こうしたハーミーズの“アクティビストぶり”を全面的に支持している。日本に例えるならば、NTT共済が他の年金や大手生保に声をかけて一緒に村上ファンドを立ち上げたようなイメージであろうか。

こうしたモノを言う年金としては、米国のCalPERS(カリフォルニア州の教員組合の年金基金、世界最大規模の機関投資家と言われる)が有名だが、まさに西の横綱がCalPERSなら
大西洋の東の横綱がハーミーズといった貫禄である。実際、ハーミーズとCalPERSの間では、以前からこうしたshareholder activismの分野で協力・共同研究をしていくという協定も締結されている。

と、ここまでなら、『英国にも米国に負けじとそれなりに急進的な機関投資家がいるんだなあ』といった程度の話で済むだろう。ところが最近、ハーミーズが英国市場を大きく賑わせる“事件”があった。なんと、ハーミーズは次期のCEOに、今のCalPERSのCIO(最高投資責任者)であるMark Anson氏を招聘することを発表したのだ。CalPERSがその資産規模だけでなくアグレッシブな議決権行使の姿勢で全米から恐れられる存在になったのも、このMark Anson氏がこうしたアプローチを確立したからこそである。更に言うなれば、米国市場において『機関投資家が株主として経営に口を挟む』というスタイルを普及させたのもAnson氏の“功績”であろう。英国でもっとも力のある年金運用機関が、そうした米国の急進派年金と共闘するのみならず、その運用責任者その人をヘッドハントするとあっては、さすがに業界内でも大きな波紋を呼んだ。ハーミーズの最近の傾向から、『10年後には同社が世界最大のヘッジファンドになっているかもしれない』などといったことを言う人も少なくないのだが、さてこのAnson氏を迎えたことで、今後の“伝令・雄弁の神”ハーミーズの動向からはますます目が離せなくなった。ちなみに、ギリシャ神話のHermesには、英雄の魂を冥土へと連れて行く死神という側面もあるとか・・・

日本においても、機関投資家が議決権行使をしたり損害賠償訴訟を起こしたりするような動きも少しずつ出てきているとはいえ、基本的には、依然として彼らの言動は“多少の”経済的利益を犠牲にしてでも、政治的な要因を含めた総合的な判断、要するに波風を立てない方向を向いていることが多いように見受けられる。このような英米と日本の機関投資家の行動様式の違いは、やはり運用担当者の雇用形態の違いに起因しているといえよう。日本の年金基金では最終的な意思決定の場が本社の財務部にあったり、また運用担当者も工場勤務から配置転換されてきたようないわゆるサラリーマン・マネージャーであることが多いため、必然的にリスク選好度は低くなるし、投資先とはいえ他社にケンカを売れるほどの高度なスキル(?)も蓄積されにくい。他方で、英米の場合は運用に当たる人はプロのポートフォリオ・マネージャーであるし、彼らの報酬や地位・名声も、すべて運用成績によってのみ左右される。ハーミーズにしても、スタッフは皆運用の世界のプロ達であるし、その資本を持っているBTPSの運用方針を決めているTrustees達もまた、運用成績の向上のみを使命として指名されたプロ達である。ヘッジファンドだろうがアクティビストだろうが、何でもいいからとにかく運用成績を上げるんだ!という切実なモチベーションがそこここに働いている訳で、ベンチマーク近辺の運用を堅持した結果、本体からの拠出金の積み増しを求めるに至ったなどという事態に陥ってしまっては運用担当者として失格である。以前からウォールストリート日記のharryさんが『市場の深み』という言葉を使っていらっしゃるが、東京市場においても、物言わぬ羊たちがもう少し追い込まれて必死の形相になってくれば、必然的に市場における合理性・透明性・効率といったものが改善し、より万人にとって(発行体にとっても内外のいかなる属性の投資家にとっても)使い勝手の良いマーケットへのドライブが効いてくるのだと思う。少なくとも、ニューヨークやロンドンのマーケットはそうやって発展を続けている。



ちなみに、私はフランス語読みの方のHermesには殆どご縁が無いのだが、初めてあのオレンジと焦げ茶色の店で買い物をしたのは、忘れもしない社会人1年目の6月だ。就職してから初めての帰省となったのだが、ちょうど初めてのボーナスをもらったところだったので、ちょっと格好つけようと思って、両親の結婚記念日のプレゼントにエルメスの店でペアのシャンパングラスを買って帰ったのだ(よくテレビなどでは初めての給料で何かおみやげを買って帰る話があったが、初めての給料はあっという間に連日の飲み代に消えてしまったので・・・)。普段全く気の利いたことをしない息子なので、両親はそれなりに喜んでくれたのだが、実はそれ以降そのグラスは全く使ってもらっていないらしい。しばらくの間、帰省するたびに無理やりシャンパンを買って帰っては、『あのグラスはどうした?』と聞いたのだが、毎回返ってくる返事は、『いやー、勿体なくて大事にしまってある』だった・・・。やっぱり、人間には分相応というものがあるようで、庶民暮らしの我が家にはちょっと浮いた存在であったらしい。
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by th4844 | 2005-11-06 08:13 | Hedge Fund


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