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2005年 10月 18日

『小さなお話のプレゼント』

私は横浜の外れにある県立高校に通っていた。毎朝6時に家を出て、片道1時間半以上かけて通学する頑張り屋の高校生だったのだが、あいにく『スポーツで勝負しよう!』という意気込みとは裏腹に、伸び盛りのはずの3年間の半分以上を相次ぐ故障で棒に振ってしまった。最後の夏も関東大会で敗退し、結局何一つ納得出来る成績を残せなかった。今、改めて思い返してみても、リハビリやウェイトトレーニングばかりの本当に辛い3年間だった。

そういう状況だったので最後まで今ひとつ前向きになりきれなかったのも事実だし、或いは思春期で色気づいて黙々とスポーツに打ち込む硬派なイメージを作り上げようと躍起になっていたのもまた事実なのだが、いずれにせよ高校時代の私は、誰とでも仲良くするような気さくなタイプではなく、交友関係において『狭く、深く』というベクトルがかなり働いていた時期だったように思う。




高校3年の冬、みんなの受験勉強が佳境を迎えた頃、そんな数少ない(?)友人の1人が曲を書き始めた。目の前の勉強に追われて、誰も気に留める余裕などなさそうだったが、卒業の時期が刻一刻と迫っていた。そんな中で、彼は歌うという行為を通じて、高校3年間で何を学び何を思ったのかという意味づけを行っているようにも見えた。楽しい思い出や、或いはまだ思い出に変わっていないような切ない思いを、ストレートに綴った素敵な歌が、彼の手によって次から次に紡ぎ出された。彼の歌に込められた思いや、それに纏わるエピソードもよく知っていただけに、彼の真摯なメッセージは痛いほど伝わってきたものだ(私に伝わっても仕方がなかったのだが・・・)。私は彼の歌が好きだった。他の同級生達も、受験が終わってあっという間に卒業式を迎える頃になると、彼の歌に導かれるようにして、慌しい日々の中でふと立ち止まって高校3年間を振り返っているようだった。

高校を卒業してからも、彼は曲を書き続けた。恥ずかしながら、卒業後しばらくの間、実は彼だけでなく私も高校時代のほろ苦い思い出の清算が出来ずにいたのだが、そんなことも手伝ってか、たまに会っては二人で朝まで大いに語り合ったりもしたのだ。そんな時、彼は『なぜ歌うのか?』ということもよく話してくれた。その後、私やその他の同級生達がどんどんフツーの大人へと退屈な成長を遂げていく一方で、彼は自分の見つけた『歌』の道を貪欲に追求していった。地元の小さなバーでミニライブをしてみたり、ストリートライブをやったり、自作のテープを販売したりして、地道にコツコツと活動を続けた。そのうち、大規模なインディーズのライブイベントを地元で企画・運営したり、ラジオ出演や全国各地でのライブ行脚もするようになったりもして、少しずつ、でも着実に彼は自分のスケールを広げていった。

そして月日は流れた。


『毎日を一生懸命生きる人への贈り物です。ほっと一息、聞いてもらえたら嬉しいよ。』

今日、横浜の彼から手作りのCDが届いた。最近作成した限定盤を、私の長男の誕生祝いにと、わざわざロンドンまで送ってきてくれたのである。赤ん坊を抱いた妻と一緒にソファにもたれて、久々に彼の歌声に耳を傾ける。やっぱり、変わっていない。勿論、歌が上手になっていたり、楽曲がやや洗練されていたりもするのだが、彼の歌の芯の部分は10年以上前のあの頃と何も変わっていない。まっすぐで、優しく、そして温かい。昔の曲も新たにレコーディングし直してあるのだが、歌に込められた思いはきっとそのままなんだろうと思う。あの頃の大切な思い出は、やっぱり今でも大切に歌い上げている。

全7曲のこのCDに、彼は『まえがき』としてこんなメッセージを寄せている。

『ここにのせた小さなお話は、すべて本当にあったお話です。ぼくらが暮らす毎日は、あたりまえのようだけど、おもしろくて、ちょっとせつなくて。そんな本物の人生のドラマを、心を込めてアルバムにしました。忙しい毎日のすきまで、ほんの少し体を休めてこのCDをひらいてみてください』

そのメッセージの通りに、彼の歌は、忙しい日常の中でついつい忘れかけてしまうような温かい気持ちを運んできてくれた。帰宅してから、もう何度も何度も聴き入っている。

私には音楽業界のことはさっぱりわからないのだが、ただ、もしも彼がメジャーデビューだけを第一の目標にしていれば、もっと違ったやり方で、とっくにそのステージに辿りつけていた気がしてならない。でも、彼は自分の足で自分で歩くことにこだわってきた。誰かの力で、自分の生き様とはかけ離れたような遣り方で“夢の世界”に突然連れて行ってもらうのではなく、これまでの人生で培ってきた価値観に基づいた“自分の世界”を少しずつ自分の力で周囲に広げるように生きることを潔しとしてきたのではないかと思う。もともと世間体を気にするような小さな男ではなかったが、それでも一介のミュージシャンとして生きることは決して楽しいことだけではなかったはずだ。これまで強い志を貫いてきた彼を、古い友人として本当に誇りに思うし、心から尊敬している。

30歳を迎える今、彼はいよいよ勝負をかけているというのだが、もしも今の彼が望むなら、メジャーの世界に“飛び込む”のではなく、“自然にスッと入っていける”気がする。別に今までも何の力にもなれていない私だが、少なくとも友人の1人として、そして初期を知るファンの1人として、これからもそんな彼の歩みをずっと応援していきたいと思っている。

http://choji.jp/
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by th4844 | 2005-10-18 08:46 | Me, Family, Friends


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