2005年 10月 12日
学生時代に少しだけロンドンの語学学校に来たことがあったが、あの頃、『これはいい!』と思ったのは世界最高水準といわれるロンドンのタクシーではなく、庶民の味方ナイトバスだった。ナイトバスとは、その名の通り夜間運行されているバスのことである。ロンドンのバスは、主要路線であれば一晩中走っている。一時間に数本しかなくなるのでちょっと不便ではあるが、それでもどんなに遅い時間でも普段使っているトラベルカード(定期券)で帰宅出来るので、安心して夜遊び出来るのだ。金曜にもなれば明け方3時や4時になっても、多くのナイトバスの始発点となるトラファルガースクウェアは無数の若者で溢れかえっている。 とはいえ、仕事でこの街に住んでいる今、もはやナイトバスにお世話になることもなくなってしまった。だから、もしも今、『英国で重宝しているものは何か?』と聞かれれば(別に誰も聞きたくはないか・・・)、BBC、FT、economistと答えてみたい。 BBCやFTが世界一の放送局や新聞だと言っているのではない。さすがに自分はそんなものを評論出来るような立場には無い。ただ、一人のユーザーとして素直に『便利だな』と思うのだ。なかなかお忙しいとは思うが、少しでも海外事情や英語の勉強に興味のある方は是非ともこれらのウェブサイトを覗いてみて欲しい。BBCのサイトでは凄まじいボリュームのデータベースにアクセス出来るし(勿論タダ)、FTやeconomistも大方の記事はなんと無料で公開されている(ただ、FTについては、金融や財務に携わっている方は購読料を払ってLexというコラムを読み続けてみるべきだと思う)。 私は社会に出る直前まで全く英語の勉強などしていなかったので(大学も指定校推薦で入れてもらったため、ろくに受験勉強すらしていない・・・)、当然のことながら英語を読むのがものすごく苦手で、その上(それ故?)大嫌いだった。恥ずかしながら、今でも読むのはかなり遅い方だと思う。でも、もしも面倒臭がって日本語のメディアにしか目を通さないでいると、世界中に氾濫している情報の殆ど全てに目を瞑っているようなものだ。中にはタイムラグを伴って和訳されるものがあったとしても、抄訳されていたり、コンテクストを理解しない翻訳家の手で誤訳されているものも散見される。良質の情報を手に入れたいのであれば、やはり、相当に無理をしてでも英語のメディアに対するアレルギーを完全に払拭しておくことが大切だと思う。 それにしても、英国のメディアに触れていて感心するのは、そのバランスの取れたグローバルな視点だ。テレビをつけたり、新聞を広げてみれば、国内のことや近隣の大陸欧州諸国は当然として、米国、中南米、アフリカ、中東、南アジア、東アジア、オセアニアなどなど、毎日世界中のニュースで溢れかえっていて、しかもそれが普通にトップニュースに来たりする。先述のFTのLexを例にとれば、最近だけでも三洋電機のリストラ案、ソニーのリストラ案、日本のメガバンクの公的資金返済状況、ウォルマートによる西友の子会社化、任天堂の業績などなど、日本企業を対象にしたものだけを採ってみてもそれなりに突っ込んだ記事が頻繁に登場している。こういった具合で洋の東西を問わず、毎日各地のニュースが纏まっているのは非常に素晴らしいことだと思う。 また、金融の世界でも『世界で一番大きくて一番進んでいるのは米国市場だが、米国は巨大な単一市場に過ぎない。世界で最もインターナショナルなマーケットは、間違いなくロンドンだ』というようなことを言う人は意外なほど多い。こうした真のグローバルなモノの見方はいったいどこから生まれたのか。アイルランドを除いて地続きの国がないという地理的条件、大陸欧州と米国との間でのバランサーであろうとする政治的立場、或いは、かつて七つの海を制した旧大英帝国時代の遺産。そうしたplausibleな説明もよく耳にするし、他方で、英国に世界中から移民が集まってきているからこそ、そうした地域のニュースを真剣に欲している人が多いということも事実であろう。 尚、economistについてはBBCやFTと比べるとやや物足りないという点は否めない。かなり広く浅くトピックをカバーするタイプの週刊誌なので、前週に世界で何が起きたのかをおさらいするには大変便利だし、かなり多くの人が購読しているので、おじさんたちの話題に合わせることが出来るという利点もある。ただ、個々のニュースの深層やインプリケーションまでをそこに求めることは出来ない。例えば、昨年12月に同誌が『ドルはいよいよ基軸通貨としての役割を終えたか?』といった特集を組んだ時には、『とうとうeconomistまでがドルの終焉を報じているくらいだし、いよいよそろそろドル買いかな?』といった扱いをされてしまうような位置付けだ(そして、その通りに、年初にはドル安に歯止めがかかってしまった・・・)。ところで、economistの先週号の特集は日本だった。『過去15年間の低迷から、日本経済もようやく抜け出しつつある。革命的な改革はとうとう起きなかったが、しかし無数の小さなadjustmentが随所でなされており、これらが積もり積もって、日本は今静かに復活を遂げようとしている。米国の大恐慌時代に、その後数十年の米国の反映を誰も予想できなかったように、今回も日本の底力を認識出来ていない人が多過ぎるのでは?』と、随分と持ち上げていた。目下、東京市場は株価も好調だが、economistが持ち上げるということは、ひょっとして売りのサインだったりしなければいいのだが・・・。 http://news.ft.com/home/uk http://news.bbc.co.uk/1/hi/default.stm http://www.economist.com/index.html
by th4844
| 2005-10-12 07:40
| London, UK, Europe
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