2005年 09月 19日

flat tax (flatter tax)

英国では与党労働党が97年以来中道路線を堅持しているため(以前に比べれば若干左寄りにはなったが・・・)、保守党は得意な筈の経済政策で特色を出しにくくなっており、今年5月の総選挙でまたしても苦杯を嘗めた。こうも敗北が続くと、彼らの中で次回の政権奪取に向けて、より違いを鮮明に打ち出していこうというベクトルが働くのは必然であろう。

最近、同党とそれから野党第二党の自由民主党(80年代に労働党の中道派が分離独立)が相次いで英国におけるフラットタックスの導入の可能性についての調査委員会を立ち上げることになって、少し注目を集めている。




米国や英国では、これまでにも何度かフラットタックス、すなわち所得税の課税率の平準化が議論になったようだが、実現には至っていない。ところが、近年東欧諸国が相次いでフラットタックスを導入して、しかも経済的にそれなりの成果を上げているため、最近は西欧諸国でも景気浮揚策として俄かに脚光を集めている。とりわけ、本日の総選挙で勝利が確実視されているドイツのCDUはフラットタックスの導入、もしくはそれに近い形の税制改革に前向きである。

最近の報道を総合すると、フラットタックス導入のメリットとしては、まず以下の3点が挙げられている。
①極端な累進課税を廃して税率を一律とすることによって、高所得者層の勤労意欲や納税意欲(?)を促進する。
②他の政策とセットにすることで、外資企業の進出を促進する。
③各種の特別減税や控除を廃止することによって、徴税・納税ともに簡素化され、両者のコストと税金の取り漏れの減少に繋がる

この他に、高所得層に対する税率の引き下げと同時に、従来の所得税を支出税(課税ベース=所得-貯蓄)のような形に改変することによって、貯蓄及び投資を誘導を図るというスキームも米国などで検討されたことがあるが、これは少しスコープが変わってくる(貯蓄・投資促進も狙っている)。

どこの国でも、税制の議論になると左寄りの勢力は決まって、『金持ち・大企業優遇には断固反対』と金切り声を上げるのが常なので、『さて、今回のこの試みがどんな波紋を呼ぶことになるのか』とちょっと注目していたのだが、さすがにこれまでにも何度か議論されたイシューだけあって、テレビや高級紙の論調は比較的冷静というか、どちらかと言えばこれを建設的な提言として歓迎している雰囲気だ。正直なところ、これには少し驚いた。

私はフラットタックスの是非について意見を言えるだけの知識も持ち合わせてもいないので、こういった税のあり方については、まだ中立的な立場の積もりである。ただ、税制改革とは即ち国の在り方についての壮大な議論であるということを思えば、やや急進的、極端な提言も含めて、幅広くじっくりディベートがあって然るべきではないかと考えている。

そう考えると、果たしてわが祖国ではこういう議論をしていくだけの土壌が出来上がっているのだろうか。今回の衆院選で有権者は改革断行への掛け声にこそ呼応したものの、いざ各論の議論になるとどうなるのであろうか。政治の側も、各分野のステークホルダーの猛烈な反発を乗り越えて正論を貫徹するのは並外れた勇気とエネルギーが必要であろう。以前、赤字企業への課税の可能性を探って外形標準課税の議論が浮上したときにも思ったことだが、『金持ち・大企業を優遇するな』、すなわち『取れるやつから取ればいい』という応能負担原則は、高額納税者が逃げ出さないということが大前提となっている。しかし、『人間、誰でも親と祖国は選べない』というのは、もはや普遍の真理ではない。これまでの日本人や日本企業では言葉の問題が大きな障害になって、国外脱出という選択肢が非現実的な極端な例としてしか認識されていなかったが、もうそういう時代でもないだろう。かつて坂本竜馬は『脱藩者』として後ろ指を指されたが、今どき、仕事を探して他府県へ出て行くのをためらう人がどれだけいるだろうか。私が想像するに、今の若者が東京から欧米に移住するのに要するエネルギーやコストは、おそらくその父母や祖父母世代が地方都市から東京に出てきた感覚とあまり変わらないのではないかと思う。本当に、その障害になっているのはコトバの問題だけだろう。北欧やベネルクス諸国出身者を見れば、そうした根無し草のような人が本当にたくさんいる。彼らの話を聞いていると、国籍なんて、フィットネスクラブの会員権と大して変わらない感覚だ。料金やサービス内容や雰囲気(これも大事)を見て、魅力的なところがあれば、実にあっさりと転居・転職をしているし、人生の各ステージにおいて適切な居場所を求めて移動することを寧ろ楽しんでいるような様子もある。祖国のことを愛して止まないからと言って、その国の社会保障制度に“入会”するかどうかは、全く別問題と捉えているようだ。

『金持ち、大企業』は皆を養ってくれる足長おじさんであり、大事なスポンサーである。そういう経済力のある人や企業というのは本当に少数だ。だからこそ、その限られた良質な資本や労働力を巡って、各国政府が競争を繰り広げ、より魅力的なインフラをハード・ソフト両面で整備しようと躍起になっているのだ。だからこそ、東欧諸国がフラットタックスを相次いで導入したのである。日本でも、皆の生活水準を支えてくれる大事なスポンサーを惹きつけ、そして繋ぎとめておくためには、少なくとももう少し丁重に扱って然るべきではないかと思うのは、私だけであろうか。誤解の無いように言っておくが、私は別に金持ちを優遇すべきだと思っている訳ではない。ただ、金持ちに失礼なことばかり言って、彼らがいなくなってしまったらどうするんだ、という心配をしているだけである。どんな商売でも営業経験のある方なら、こういう感覚をお持ちになると思うのだがどうなのだろう。

まあ、そうは言っても、政治の世界では社会への“出資比率”に関係なく、議決権は国民1人1票ずつしか与えられないので、政治家が公衆の面前で少数の勢力にペコペコしていると当選も覚束ないというのは事実だ。現実的に見て、完全なフラットタックスというのは政治の世界では通らないので、どこの国でも、実際には低所得層を対象に非課税枠を作っておいたり、年金の控除については維持するといった、いくつかの社会的な配慮を加えた制度が導入または検討されているようだ(この辺は専門外なので、勘違いがあれば是非ともご指摘を頂きたい)。ということで、実質的には『過度な累進率を是正する減税プラン』という捉え方でいいのではないかと思う。従って、実際にはflat taxではなくflatter taxに過ぎないので、実効税率で考えれば依然として立派な“貧乏優遇”であることに変わりは無い。

それから、flatterな税制もいいが、simplerな税制も重要であろう。政治家が毎年毎年新たな特別減税でバラマキを続けるお陰で、税務の専門家なしには申告作業も覚束ないというのは、どこの先進国でも共通の問題である。ここらでこれらをリセットして、簡潔な課税ルールに立ち返ることについては、もっともっと積極的に考えていくべきではないかと思う。
[PR]

by th4844 | 2005-09-19 05:33 | London, UK, Europe


<< アブソリュートリターン投資全盛...      touch wood >>