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2005年 08月 10日
andyathomeさんのヒルズ投資銀行日記の本日のエントリー『日本の生きる道-アジア最大の金融センター』では、当ブログにトラックバックして頂いた上で、日本も金融などの知的資本をベースとした産業に軸足を移していくべきことと、そうした新産業における競争力を強化するためには専門分野において高度なスキルを有する外国人労働者/移民を積極的に受け入れていくことを提言されている。 こうした構造改革の方向性は、まさに過去20年間に米国、英国が復活を遂げた道程である。勿論、両国が辿った道を日本がそのまま模倣する必要はないが、そうは言っても、両国がどん底の経済社会を立て直して国としての威信と自信を取り返すことが出来た改革から学べることは多い。いつも、当ブログでは私がロンドンで見たこと、感じたことをいろいろと書かせて頂いているが、日本が英国の経験から学べる教訓というのは以下のような点であると考えている。 ①国が豊かになればなるほど、製造業に過度に傾斜した輸出立国として生きながらえるのは難しくなる。人件費の高騰や為替レートの上昇によって価格競争力を失うためである。 ②輸出産業の競争力の低下は、国力の低下に直結する。高成長を前提とした社会福祉や労使協調が制度疲労を来たすためである。 ③伸び悩む製造業に代わって基幹産業となり得るのは、サービス業である。教育や文化といった知的資本が集積されていることが優位に働く他、豊かになった自国内においてこうした産業への需要が飛躍的に高まるためである。 ④製造業の競争力維持・向上には効果的な設備投資が不可欠だが、サービス業の競争力向上には法制や教育(専門知識と語学)の充実といったソフト面でのインフラ作りが鍵となる。 ⑤高度な社会福祉の財源を維持するには、労働生産性の向上のみならず、一定の労働人口の維持も不可欠である。従って、少子高齢化が進行している場合には、国外からの質の高い労働力の受け入れが極めて有効である。 ⑥制度改革には多大な時間(及びその結果としてコスト)を要する。既得権益を死守しようとする抵抗勢力の牙城となる権力基盤(政治的地盤)と財源を崩すことが必要になるためである。 ⑦適切なリーダーシップが発揮されれば、それまでにかなり硬直していた社会でも、比較的短期間で大きく変貌を遂げることが出来る。 特に少子高齢化のスピードが世界で最も急速に進行していて、誰よりも早く(そして速く)制度改革を実施しなければならないのが日本である。悠長にことを構えていると、気がついた時には借金貧乏になっていた、ということに成りかねないのは、NED‐WLTやロンドン投資銀行日記、本石町日記といったブログで諸兄が鋭くご指摘されている通りである。 尚、最後に⑧番目の教訓として挙げておきたいのが、外国人労働者や移民の受け入れは非常に重いアジェンダである、という点である。私は、日本も(少なくとも東京は)そういった開かれた社会になっていくべきであると強く信じているが、やはりこれは一筋縄ではいかない。経済合理性からいえば、能力とやる気のある人(ここでは外国人)にどんどん活躍のための場を与えて、彼らの稼ぎの中から皆が食べさせてもらう、という仕組みは理に適っているのだが、社会には経済価値では計ることの出来ない“人間の尊厳”という問題もある。稼ぎ頭がいて、再分配の仕組みも出来ていて、誰でも最低限度の生活を送ることが出来るようになったとしても、能力その他の事情によって、自らが長期に亘って失業していたり、あるいは極めて単調な単純労働に従事するだけであったとすると、成功者に対する妬みや嫉み、そうでなくても無気力、シラケといった精神状態に陥りやすくなる。そうなってくると、外国人労働者というのは、『あいつらがオレ達の仕事を奪った』という批判の対象になり易い。昨年のEU拡大以降、大陸欧州各国では、まさにこうした議論が噴出している。まして、日本のように多民族が共生するという経験を久しくしていない社会(1200年くらい前までは日本も有能な“渡来人”の活用に積極的な社会だったはずだが・・・)では、そういった外国人に対するアレルギーはいっそう強くなるであろう。先般のエントリーで、私がヘッジファンド悪玉論を嘆いたのも、実は『ヘッジファンドが小銭を稼いだくらいでキャーキャー言っているようなお国柄じゃ、この先日本は若くて優秀な外国人に出稼ぎに来てもらえなくなるぞ!』という思いがあったからこそである。 勿論、外国人労働者を受け入れないという選択肢も無い訳ではない。ただし、人間ひとりひとりの能力や動機(やる気だけでなく興味や選好も含めて)に差がある以上、そこからのアウトプットにも差があり、その労働への対価というのもまた差があるのは明らかであろう。今日の資本主義や市場原理とは、そうした個体間格差を肯定し、しかもそうした格差にレバレッジをかけることによって、社会全体のパイを効率的に拡大して、再分配される平均値を引き上げていこうという仕組みである。そこでは、平均値の引き上げに資するのであれば、庶民の生活水準からかけ離れた水準の一部のスーパーリッチの存在も積極的に認められており、言うまでもなく米国や英国がこのモデルを採用している。他方、社会主義(今風に社会民主主義でもいいが・・・)とは、“大きな政府”が経済に介入することによって、そうした平均値の引き上げよりも上位から下位までのレンジの差を際立たせないことに重きを置いたモデルである。極論すれば、徒競走で全員で手を繋いでゴールするような状況であろう。多かれ少なかれ大陸欧州はこうしたモデルに近いところを目指してきた。 戦後の日本も、一貫して後者のモデルを採用してきたが、幸いなことに、分配されるパイ自体が驚異的なスピードで拡大を続けていたために、アップサイドをギブアップしているという認識はあまり共有されてこなかった。ただし、労働者人口の減少が始まることによってそうした高成長が望めなくなったため、いよいよ『さて、それでは、これからどういう国にしていこうか』という議論から逃げられなくなってきたのである。直言すれば、こうした社会制度設計の議論では、都市部と農村部、若年層と高齢層、富裕層と貧困層といった稼ぐ側と養われる側の対立が鮮明になる。あまり露骨に言う人は少ないものの、とりわけ今の日本の構造問題とは、世代間対立に他ならない。働き者のおじいさんが引退して、立派な家を建てたはいいが、息子や孫にろくに相談もなく、勝手に3世代ローンを組んでしまった。息子(お父さん)はまだしも、孫にしてみれば、ローンの負担が重い割に、家の中には自分の部屋もないし大学に行くにも学費は自分で稼げと言われる。あるのはおじいさんが使うことになるかもしれない車椅子用の手すりだったり、エレベーターだったり。今後、この孫の取り得る選択肢としては、①ローンは払うが家の中を自分や自分の子供も使いやすいものにリフォームするか、②家の一部を若い学生にでも賃貸出来るようにリフォームするか、③みんなで小さな家に引っ越すか、④この家での悲観的な将来に見切りをつけて自分だけ家出するか、といったところだろう。 都市生活者、若年層、そして富裕層が、『日本の改革が遅々として進まない』と嘆くのは、日本の政治が養われる側の代理人達(=抵抗勢力)にすっかり占拠されているからに他ならない。養ってもらう側の人間の方が、政治活動に余念がなかったからである。これまでの豊かな生活に別れを告げ、みんなで清く貧しくしかし仲良く生きていく、というのも美しいかもしれないが、やる気に満ち溢れた人たちにすれば、そんな窮屈なジリ貧シナリオよりも、いろいろなことに挑戦出来る世の中であり続けて欲しいと思うであろう。私も、社会全体の絶対的な豊かさ(前述の“平均値”)の維持・向上なくして、構成員の間の相対的な豊かさ(前述の“レンジ”)について議論することは意味を為さないと思っている(『取らぬ狸の皮算用』と言う)。だとすれば、持続的に成長が可能な社会経済システムへの転換、すなわち構造改革を進めるために、そうした考えの人たちを立法府にもっと送り込むことが不可欠である。過去10年くらいの間、日本では与党と野党のそれぞれの内部に急進改革派と穏健派が歪な形で混在し続けてきたため、有権者に対して必ずしも明快な選択肢が与えられていなかった。しかし、今回の衆院選でもしも“新・自民党”が特定の利益団体とのしがらみを薄めて、そうした改革を望む市民の支持を結集することが出来れば、ひょっとすると、いよいよ日本も一歩踏み出せるかもしれない。小泉首相らしい大胆な勝負によって政界が俄かに風雲急を告げつつある今、そうした希望を抱かずにはいられない。 by th4844 | 2005-08-10 16:54 | London, UK, Europe
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